快楽についても学ぶことなく

 もちろん、セックスに関する快楽(オルガズム)についても、学校で教わることもなければ、両親から聞くこともなければ、友人と話したこともありません。自分の性欲を満たすために、自然とセルフプレジャーをするようになったのも、大学生の頃からです。セルフプレジャーをすると、性的な快感はもちろん、日常のストレスから解き放たれる快感、そして満たされた中で眠りにつくことができることを知ってしまったからです。

 私が感じているこの快感は、セルフプレジャーによって得られる快感に伴うホルモンが影響しているようです。米スタンフォード大学のメディカルセンター女性性医学部長であるリア医師(※7) が、「セルフプレジャーをすると、ストレスと不安が発散される」と指摘するように、オルガズム(性的絶頂)を感じると、脳内には「オキシトシン」と「エンドルフィン」という2つのホルモンが放出されます。

「オキシトシン」というホルモンには、ストレスを軽減させ、緊張を和らげる作用があるほか、セロトニンの分泌を促す作用により、「眠りのホルモン」とも言われるメラトニンの分泌量も増えるため、心身をリラックスさせ、良質な睡眠をもたらすことにつながるのです。また、「エンドルフィン」というホルモンには、強力な鎮痛、鎮静作用があります。その効果はモルヒネの数倍とも言われるほどの作用だといいます。これら2つのホルモンの働きによって、「セルフプレジャーによって、ストレスと不安から解放され、寝つきが良くなる」というわけなのです。
 

 こうした性的快感をも網羅した性教育は、禁欲プログラムやリスクをより重視した性教育よりも、より効果的になりうることが判明しています。オックスフォード大学のミレラ氏(※8)らによる、人々がセックスをする主な理由である性的快楽を性健康の介入(つまり性教育)に組み込むことに関連した調査の系統的レビューとメタ解析では、快楽を取り入れた介入(性教育)の方が、コンドームの使用にプラスの影響を与え、それがHIVと性感染症の減少に、直接的に影響するという証拠が得られたほか、質的には、快楽はさまざまな情報や知識に基づく態度や自尊心をも高める可能性があるという証拠が得られているのです。

 パリ五輪における「快楽と同意を支持する包括的な性的健康キャンペーン(※9)」を通して、性に関する快楽をも網羅した性教育の効果が広く世間に知られるようになったとしたら、性に関すること自体がタブー視される社会も変わっていくのかもしれません。

【参照URL】 

 (※1)https://www.cnn.com/2024/03/19/sport/paris-2024-olympics-free-condoms-mental-health-resources-spt-intl/index.html

 (※2)https://www.cnn.com/2024/03/19/sport/paris-2024-olympics-free-condoms-mental-health-resources-spt-intl/index.html

 (※3)https://www.cnn.com/2024/07/13/europe/paris-olympics-sex-education-pleasure-spt-intl/index.html?iid=cnn_buildContentRecirc_end_recirc

 (※4)https://www.verywellhealth.com/what-are-dental-dams-906812

 (※5)https://www.nikkansports.com/olympic/tokyo2020/news/202106030000164.html

 (※6)https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/__icsFiles/afieldfile/2020/20200317-mxt_kensyoku-01.pdf

 (※7)https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/a40085423/self-pleasure-20220601/#link2

 (※8)https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0261034

 (※9)https://www.cnn.com/2024/07/13/europe/paris-olympics-sex-education-pleasure-spt-intl/index.html?iid=cnn_buildContentRecirc_end_recirc

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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