プールの中では「気づきにくい」
なぜ、プールの中でも熱中症になるのか。スポーツ医で国立スポーツ科学センターのセンター長を務めた川原貴さんは、
「プールでの熱中症は、発症するまで気が付きにくいのが特徴」と話す。その仕組みについてこう説明する。
「水泳は、全身運動なので泳ぐと体温が上がり、水中でも大量の汗をかきます。水温の上昇に伴って発汗量もさらに多くなりますが、水中だと全くと言っていいほど気が付かないです。また、水着は露出が多いので、屋外プールだと日差しや熱を遮ることができません。太陽光は水中でも体を照り付けます。気温とともに水温が上昇する炎天下では、熱中症のリスクが高まります」。
筆者は体質的に代謝がよく、運動の際には人の何倍も汗をかく。陸上では服が濡れるため気が付くが、水中で発汗量を自覚するのは難しかった。「汗をかいている」という感覚は全くなかった。
川原さんによると、プールが屋内でも熱中症になるケースがあるという。
「口の中が水で濡れることも、のどの渇きを感じにくい原因のひとつです。陸上と違い、水中では軽い脱水症状のときにものどの渇きは感じにくいです。水面から顔を出しても屋内プールの湿気で潤っているような感覚になります。外よりも高い湿度下での運動は、より体力を奪っていきます」
さらには、プールの水温も大きく影響しているという。
「大会などで使われるプールは水温が保たれており、水中運動に適した28度くらいの温度になりますが、学校管理のプールでは水温が高くなることが多く、33~34度くらいになることもあります。33~34度は、水中でじっとしている限りは、体温が上がりもせず下がりもしない『中性水温』と呼ばれるレベルですが、これより高くなると運動しなくても体温が自然と上がってしまいます」