待ち合わせ場所は町の中心部にある「GRAV BICYCLE STATION(グラバイステーション)」。良平君はここを拠点に旅行者に自転車を貸し出したり、サイクリングツアーを企画したりしている。コミュニティースペースにもなっていて、自転車旅行中の若者がよく足を運ぶそう。ここで良平君が特に力を入れるのが、自転車を使った教育活動だ。「グラバイキャンプ」と名付けたプログラムには小学生向け、中学生向け、リピーター向けの3コースがあり、良平君と子どもたちが数日間かけて自転車で旅をする。
「自転車って教育ツールとしてとても優れているんです。五感を使って好奇心を高めてくれる。1日30キロがやっとだった子も、仲間と励まし合いながら峠を越えて60キロ以上走っていける。それが自己肯定感につながります。それにキャンプを組み合わせ、生きるために必死になる体験をしてもらいます。スタート時は不安顔の子が、1週間後自信に満ちた表情で帰ってきます。僕も自分に自信がなくて、閉塞感を吹き飛ばしたくて旅に出ました。自転車をきっかけに一歩踏み出す子を見るのはうれしいですよ」
自転車冒険家としての情熱も失っていない。今年3月には晩冬のモンゴルへ。時に気温氷点下10度、風速17メートルという厳しい環境の大地を、12日間かけて駆け抜けた。目標とする南極に向けたトレーニングでもあるという。
「次はパキスタンの高地を走ります。そのあとグリーンランドやカナダでトレーニングして、2030年、50歳になるころには南極を走りたい。世界一周中と比べて肉体的には弱くなったし、どんな環境でも生き延びられる強い自信もなくなりました。でも家族ができて、『絶対に生きて帰る』というマインドを持てるようになった。冒険家としては、強くなったと思います」
そして南極の次は? 良平君はサインにいつもこう書く。
「月を走ろう!」
科学技術の進歩著しいいま、それに良平君の情熱があれば、決して夢物語ではないかもしれない。
(編集部・川口穣)
※AERA 2024年7月22日号