「勝つ術を熟知している」
辻氏は17年から西武の監督に就任。3年連続Bクラスと低迷していたチームを1年目で2位に引き上げると、18、19年にリーグ連覇を飾った。秋山翔吾(現広島)、森友哉(現オリックス)、山川穂高(現ソフトバンク)、中村剛也を中心に破壊力抜群の打線で打ち勝つ豪快な野球のイメージが強いが、それは一面に過ぎない。当時西武を取材していた記者はこう語る。
「辻さんは走塁と守備を大事にしていました。実際に監督になってから起用した源田壮亮、外崎修汰が機動力野球の核になり、金子侑司、木村文紀と走れる選手が多く、相手バッテリーは打者に集中できなかった。19年の134盗塁はリーグトップです。決して長打に依存した打線ではなかった。凡打したことを責めなかったですが、守備や走塁のミスに厳しかったですね。バッテリーの配球についても細かかった。80年代後半から90年代半ばまで西武の常勝軍団の中心選手として活躍し、中日で落合さんの元で指導者として薫陶を受けているので、勝つ術を熟知している。当時黄金時代を築いていたソフトバンク相手に、リーグ連覇を飾ったことは大きな価値があります。今の西武に適任の監督だと思いますよ」
辻氏は3位に終わった22年のCSファーストステージでソフトバンクに敗れ、同年限りで退任。バックネット裏から西武の試合を見ている。
辻監督の下でプレーしたある選手は、「正直戻ってきてほしい気持ちはあります。辻さんの指導を受けて野球の奥深さを知り、優勝する喜びを経験できました」と感謝の思いを口にする。
西武OBも辻氏の監督復帰に「現実的な選択だと思います」と理解を示す。
「2年前まで監督をしていましたし、チーム内を把握するのにそれほど時間がかからないのが大きなメリットです。ただ、辻さんが有能でもチーム強化は時間が必要です。メンバーを見ると、かつてのように強打者をそろえて山賊打線を構築するのは現実的ではない。投手陣は以前に指揮を振るった時より整備されているので、守り勝つ野球を目指すことになると思います」
ペナントレースはまだ中盤。次期監督の決定はまだ先になるが、「常勝軍団」復活に向けたチーム立て直しの指揮官候補に、辻氏の名前があるのは間違いないだろう。
(今川秀悟)