吸血中のトコジラミの成虫(左)と吸血して腹部が膨大した状態=兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師提供

トコジラミをむやみに怖がる必要はありません。正しい知識を持って、正しく対処することが大切です」

 これまで夏秋医師はさまざまな害虫について自らを実験台にして皮膚反応や対応法を研究してきた。トコジラミも数十匹を飼育し、少なくとも40~50回は刺される実験を行ったという。

 トコジラミには誤解も多い。たとえば、「トコジラミに刺されると、かゆくて夜も眠れない」とよくいわれる。だが、個々のかゆみは、蚊に刺された場合とさほど変わらない。1、2週間で自然に治る。

 一般人にとって厄介なのは、知らぬ間に外出先から持ち帰ったトコジラミが自宅で繁殖し、毎晩刺されるようになるケースだ。こうなれば皮疹が多発して「夜も眠れない」事態となりかねない。

刺されても症状が出ない

「実は、初めてトコジラミに刺されたとき、かゆみはないし、赤いブツブツも出ないんです」(夏秋医師)

 トコジラミ以外の吸血性の昆虫も同様だが、通常、2、3回刺されないと赤い発疹やかゆみなどの皮膚症状は表れない。吸血昆虫の唾液腺物質に対するアレルギー反応が起こらないためだ。2、3回トコジラミに刺されて症状が出るようになっても、「遅延型反応」といって、刺されてから症状が出るまでに2、3日かかる。

「つまり、宿泊先でトコジラミに刺されても、その時点では何も症状が出ないので、トコジラミの存在に気がつかないのが普通なんです。無防備なまま、トコジラミが荷物や衣類に紛れ込んでしまい、自宅に持ち帰ってしまう」(同)

 トコジラミは暗がりを好む。スーツケースや衣服のジッパーの両脇のすき間に入り込むことも多いが、この部分を広げて確認しなければトコジラミに気づかない。

 ちなみに、トコジラミは吸血のたびにベッド周辺のすき間と寝ている人の間を往復することが多いので、ベッドから離れた入り口付近やバスルームに荷物を置くだけで、トコジラミを持ち込むリスクはかなり減る。

1匹のメスが200個以上産卵

 トコジラミの繁殖力はすさまじい。多くの昆虫のメス同様、トコジラミは1回交尾すれば、2度と交尾せずとも卵を産み続ける。1匹のメスは生涯200個以上も産卵する。

「つまり、1匹でも交尾したトコジラミのメスを持ち帰れば、アウトです」(同)

 トコジラミに刺されれば、顔や首、手などの露出部分に赤い発疹やかゆみが出て、「虫刺され」には気づくだろう。しかし、昼間は寝具や家具のすき間に潜むトコジラミの姿を見ることはない。

「いつどこで何の虫に刺されたのかわからない状態が続きます。そのため、『トコジラミに刺された』と言って、皮膚科を受診する人はまずいません」(同)

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トコジラミが大繁殖した家の末路