牛車を引くために飼育された牛。牛使いは大人でも童(子ども)の身なりをしていたため、「牛飼童(うしかいわらわ)」とも呼ばれ、左右に付き添って歩く者は「車福(くるまぞい)」と呼ばれた
この記事の写真をすべて見る

 大河ドラマ「光る君へ」にこれまでに登場した動物で、印象深いのは猫だ。黒木華演じる藤原道長の嫡妻・源倫子の愛猫は、まひろも参加した姫君たちのサロンにも顔を出し、愛くるしい姿が話題になった。

 平安時代の貴族たちは、こんなふうに猫をかわいがっていたのだろうか。『源氏物語もの こと ひと事典』(砂崎良・著)から紹介したい。

***

 平安貴族は、松虫や鈴虫を集めさせて籠で飼ったり自分の庭に放したりしていた。雁(かり)や烏(からす)、鹿も、声と姿が観賞の対象。鶏も、朝を告げる鳥として恋人たちに恨まれ、また闘鶏(とうけい)に使用された。

 飼育していたものには牛、馬、鷹(たか)、鵜(う)、雀、猫がいる。

 牛は、最も一般的な乗り物・牛車(ぎっしゃ)を引く動物で、飼料や替え牛の手配は男性貴族の日常業務だった。乳も、酪(らく)や酥(そ)として食用にされたが、限定的だった。馬は、より手軽な交通手段として乗られたほか縁起物でもあり、しばしば贈答された。

鷹は、引き出物や家禽として大事にされた。源氏物語では光源氏が明石君を大堰(おおい)に訪ねた際、別荘・桂の院で小型の鷹を用いた小鷹狩りが行われる

 鷹と鵜は、漁猟に使う重要な家禽(かきん)。鷹狩りと鵜飼いは、スポーツや見ものとして愛されただけでなく、天皇の行幸に付き物の象徴的行為でもあった。鷹を飼いならして野に放ち、鳥やウサギなどを捕まえる鷹狩は、日本のみならず世界各地で発達した。

猫は、遅くとも弥生時代には日本に到来していた。住みついた先々で特定のグループ内での交配を繰り返し、外見的特徴の固定化が起きていたようだ

 猫は当時から愛玩動物で、なかでも中国から輸入されたばかりの唐猫は、ゴージャスなペットとして特に人気だったが、現代では猫と並ぶ人気のペットである犬は、愛玩の対象としてではなく番犬・猟犬として飼われた。排泄物を食らい死骸(穢=けがれ)を持ち込むワイルドな生き物だった。

 夏の風物詩としては蛍を愛でた。蛍を集めた明かりで女性の美貌を見るくだりは、うつほ物語や源氏物語でも特に雅な場面だ。6月30日に配信した記事=【「光る君へ」本日26話】格差社会を生きた「光る君」ご一家の「お受験」事情=で紹介した夕霧の進学も、「蛍雪の功」に例えられている。

次のページ
狐は「下級の魔物」梟は不吉な鳥