物語の周辺に市場が生まれる。このことは物を売る人間は強く意識している。たとえば、僕は以前、ネット広告において大きなシェアを持つ広告代理店から相談を受けたことがあった。インターネットの世界では、簡単にCMがスキップされてしまう傾向にある。最後まで見てもらうようにするにはストーリーが必要だ。けれど、どのようにストーリーを構築していけばいいのかというノウハウがないので教示してほしいという内容だった。いろんな理由でお手伝いすることはできなかったが、この模索はまだ続いているものと思われる。さらに昨今ではTikTokのような短い動画コンテンツにおいてもストーリーが濃厚なものが増えてきているという。もういちど言う。物語の周辺に市場が生まれるのだ。

プロモーターが仕掛ける RIZINでの日本選手を取り巻く「物語」

 RIZINでは、プロモーターと選手がともに物語をつくっていくのが特徴的だ。もちろん、真剣勝負であるので、プロモーターの都合だけで物語がつくれるわけではない。大番狂わせは常に起こり、もくろんでいた物語が破綻することなど珍しくない。しかし、そこからまた新しい物語をともに模索し紡いでいくのである。RIZINはこのあたりが実にうまい。

 このような現実は、単なる勝ち星や実績だけではなく、物語づくりが上手な選手が市場(人気)を獲得するということになる。負けが込んでいる選手と黒星と白星だけ勘案すればたいしたことのない選手が、檜舞台に上がることもある。そして、これを批判する選手やファンがいる。そのような批判をRIZINは封じ込めようとしない。それもまた物語になるのだから。

 今プロモーター側が仕掛けているのは、鎖国状態が解かれた日本に屈強な外国人選手たちが入ってくるという、“黒船襲来”の物語だ。実はこの物語はコロナ禍によって生まれた。実力派外国人が来日できない状況が続いた中で、RIZINは日本人どうしの興行を打たなければならなかった。そしてそれは、成功した。しかし、MMAの世界において外国人のパワーの前に日本人選手が崩れ落ちた映像を、日本のMMAファンは何度も見ている。その記憶が薄れかかった頃に、コロナ禍が明け、いよいよこれから外国人選手たちが参戦してくるぞという大きな状況の物語が始まりつつあるのである。

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思い出すのは「力道山」