RIZINの熱狂の背景にあるものは。写真はイメージ(GettyImages)

 昨今人気の総合格闘技、MMA。なかでも日本でメジャーな興行団体がRIZINだ。ドラマチックな演出で人気のRIZINが日本人の心を揺さぶるワケは。小説家、榎本憲男氏によるコラムをお届けする。

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80年代のプロレスは、サザエさんのような国民的人気を博していた

 MMAという格闘技をご存じだろうか。競技としては、レスリングと柔道と空手(キックボクシング)を掛け合わせたものだととりあえずイメージしてほしい。つまり、投げたり殴ったり蹴ったり関節をねじったり、ほぼなんでもありの格闘技だととりあえず捉えてもらって結構だ。といえば、ある競技(?)を想像する人がおられるのではないか。そうプロレスである。

 すこし前まで人気のある格闘技といえばプロレスだった。もちろん、ボクシングも人気スポーツだし、こちらはプロレスにくらべたら伝統のある由緒正しい近代スポーツである。しかし、ボクシングがテレビで見られるのは世界タイトル戦ぐらいだ。それに対してプロレスは、毎週決まった時間帯で、まるで「サザエさん」のように放送されていた。このような格闘技はほかにない。とりわけ、僕の学生だった80年代にプロレス人気は沸騰した。当時、プロレスの怪しい魅力を見事に論評してくれたのが小説家村松友視による『私プロレスの味方です』だった。プロレスは、ショー的な要素がありながらも、黒星や白星以外に、レスラーの強い弱いを見極めることのできる不思議で魅力あふれる格闘技だと看破したのだった。

 しかし時が経ち、プロレスにつきもののショー的な要素をそぎ落としたハードエッジな格闘技が登場する。それがMMAだ。その真剣勝負の迫力によって、人気は急上昇し、プロレスはショー的な側面を強調し、別の競技へと姿を変えていく。

 日本におけるもっともメジャーなMMAの興行団体がRIZINである。RIZINは非常に演出が上手である。大会セレモニーや映像の演出なども、ドラマチックだ。そして大会関係者や選手たちが常に「物語」を意識していることに最大の特徴がある。

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榎本憲男

榎本憲男

和歌山県出身。映画会社勤務の後、福島の帰還困難区域に経済自由圏を建設する近未来小説「エアー2.0」(小学館)でデビュー、大藪春彦賞候補となる。その後、エンタテインメントに現代の時事問題と哲学を加味した異色の小説を発表し続ける。「巡査長 真行寺弘道」シリーズ(中公文庫)や「DASPA吉良大介」シリーズ(小学館文庫)など。最新作の「サイケデリック・マウンテン」(早川書房)は、オール讀物(文藝春秋)が主催する第1回「ミステリー通書店員が選ぶ 大人の推理小説大賞」にノミネートされた。(写真:中尾勇太)

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物語を意識するワケ