俳優、河合優実。今、一番注目を集める俳優と言っても過言ではない。2019年に俳優としてデビューすると、数々の新人賞を受賞。ドラマ「不適切にもほどがある!」の純子役で、河合優実の名前は一挙に全国区となったが、本人はいたって落ち着いている。6月7日には映画「あんのこと」が公開。主人公・杏の痛みが、河合の身体を通して私たちにも切実に届く。
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「これはシリアスな映画なんですから、もし僕がふざけそうになったら、止めてくださいね」
「いや吾郎さん、あなたが止めてください僕を」
「河合さんにお願いしましょう」
「そう、河合さんに止めてもらいましょう」
5月8日、午後6時。映画「あんのこと」の完成披露舞台挨拶の会場は、意外にも笑いに包まれていた。壇上で主演の河合優実(かわいゆうみ・23)が、共演者の佐藤二朗(55)と稲垣吾郎(50)の軽妙な掛け合いを、しなやかにいなしている。監督の入江悠(44)を含む年長の男性たちと並んでも、河合の姿は悠然として対等……というよりむしろ、頼られている感すらあって微笑(ほほえ)ましい。
「あんのこと」で河合が演じるのは、コロナ禍の都会の片隅に実在した女性だ。毒親に育てられ、売春や薬物の闇に落ちながらも必死に生きようとするその姿は、観る人の心を痛みでかきむしる。決して甘くない現実を描いた作品にこれから向き合う500人の観客の心を、いまは少しでもほぐしておきたい。そんな思いが出演者たちから感じられる。壇上では佐藤と稲垣のトークが続いている。撮影中のあるエピソードを披露した佐藤を、河合が笑いながら止めに入る。
「あんまり言っちゃうとそう思ってみなさんが観ちゃいますから。みなさん一度忘れてください!」
「そうか! 僕らが『不適切』だった!」
稲垣の言葉に観客がさらにドッと沸いた。
そう、河合優実の存在は今年1月から放送されたTBSドラマ「不適切にもほどがある!」(=ふてほど)でお茶の間にとどろいた。令和にタイムスリップした昭和男・小川市郎(阿部サダヲ)の一人娘・純子役。聖子ちゃんヘアに青みピンクの口紅のスケバンで父親に「うるせえよクソチビ!」と悪態をつき、しかしその無邪気さと愛らしさ、ふとその先の運命を予感させる寂寥(せきりょう)に誰もがくぎ付けになった。