思ったことや感じたことを常に紙やスマホにメモしている。映画「あんのこと」の杏役については、こんなメモが残っている。「この役をずっと離さないで、握り続けていられる感じがする」(写真:篠塚ようこ)

抜群のコメディーセンスに中森明菜に通じる「憂い」

「ふてほど」プロデューサー・磯山晶(56)は言う。

「純子役はなかなか決まらなかったんです。お父さんに『メスゴリラ』って言われても可哀想(かわいそう)じゃなく、お父さんに『クソじじい』と反論しても可愛(かわい)らしい人じゃないとダメだった」

 磯山は昨年放送されたNHK BSプレミアムのドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で河合に目を留めていた。

「特徴的な体の動きと抜群のコメディーセンス。顔がちょっと寂しそうなところも昭和テイストに合うなと感じていました。山口百恵さんや中森明菜さんに通じる『憂い』があるというのかな」

 脚本の宮藤官九郎(53)も「いいね!」と合意。そして予想以上の大反響となった。磯山は続ける。

「河合さんの身体を通して出るセリフは、台本にあるものよりも深く感じるんです。人気ブランド『セーラーズ』の偽物を買ってきたお父さんに『返してきて!』と言いながらも『ああ、きっと着るんだろうな』と思わせて切ない(笑)。宮藤さんも純子の存在で、作品が思ったよりエモーショナルになったと感じていると思います」

 筆者が河合の存在を知ったのは映画「由宇子の天秤(てんびん)」(21年)だ。親子ほど年の離れた塾の教師と関係を持ち、妊娠する女子高校生役。無邪気と邪気が同居するような存在感に「え? 誰?」とググらずにいられなかった。河合は「由宇子〜」と同年の「サマーフィルムにのって」などでその年の新人賞を総なめにしている。デビュー後わずか5年で22本の映画、三つの舞台に出演。今年は「ふてほど」に続き、初の地上波主演ドラマ「RoOT/ルート」でクールな探偵を演じ、映画では「あんのこと」のほか、山中瑶子(27)が監督する「ナミビアの砂漠」にも主演し、先日カンヌ国際映画祭で世界の観客から喝采を浴びた。

 そんな「時の人」に対面すると、とにかく落ち着いた物腰と声音が抜群に心地いい。しっかりしていそうというか、なんだろうこの安心感。

「いやいや、しっかりはしてないですね。でも落ち着いているとは言われます。長女だからかな」

 と、河合は笑う。演技を始めたのは2019年からだという。どうやって演技を学んだの? っていうか、いったいこの人はどんな人なの?

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