一方、よねは消息不明だ。働いていたカフェは上野にある。1945年3月の東京大空襲で、カフェから逃げようとしていた。が、逃げたのか、とどまったのかは描かれていない。終戦後、疎開先から上野駅に着いた寅子がカフェの横を通った。「そこの店の人なら、空襲で亡くなったそうですよ」と教えてくれる人がいて、よねの情報はこれ以降ない。
それ以前だが、よねは高等試験に受かっていない。常にジャケットにズボンという服装をしているよねに、2次の試験官が「弁護士になってもそのトンチキな格好をするのか」と聞く。「トンチキはどっちだ」と言い返したと寅子に語り、「口述は完璧だった」と言う。それでも「自分を曲げない」と続け、「いつかかならず合格する」と宣言する。寅子の合格祝賀会は「悪いが行けない」と言った後、「遅くなったが、おめでとう」と言う。よねは正々堂々の人だ。
2人の縁はこの後も続く。修習を終え、1940年に弁護士となった寅子が就職した弁護士事務所でよねが働くことになるのだ。そこから寅子の苦戦が始まる。依頼主に断られ続け、法廷に立てない。よねは「別な方を」と言う依頼主を見て、「何が別な方だ、女が嫌だって言え、アホ!」と憤慨する。「私が頼りなさそうに見えたのよ」と応じていた寅子だが、その状況が1年以上も続き、結婚という選択をする。
まずは両親に見合いの設定を求める。心底くだらないが、結婚で信頼度を測る人が非常に多い、だから信頼度を上げ、立派な弁護士になるために結婚がしたい、と。「27歳の弁護士」に見合い相手は見つからず、実家の書生だった優三(仲野太賀)と結婚する。よねはこう言う。「逃げ道を手に入れると、人間、弱くなるもんだぞ」
弱くなる、という言葉が効いてくるのはずっと後だ。まずは「結婚=信頼」を得て、寅子に仕事が入るようになる。過去の判例からは難しい「妻からの離婚申し立て」案件を引き受けた時、寅子はよねにこう語る。「もしかしたら世の中の動きが変わる、小さな一歩になるかもしれない」。寅子の心境は、ナレーションが代わりに語ってくれた。「自分が先頭に立つ」「社会を変えていく」。トップランナーの使命感だった。