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 よねは粛々と働いていた。寅子の案件も事務所の案件も。が、あくまでも補助的業務だ。どんな気持ちだろうと見続けた。よねは無口だし、ナレーションも補ってくれない。どうしても、今の自分の基準で考えることになる。すると、「大学同期が正規雇用でがんがん働いている職場にいる非正規雇用」という構図が浮かぶ。悔しくないだろうかと思ってしまう。

 よねの心情を推し量るのは、自分を見つめる作業だった。63歳だというのに、活躍する同世代女性を見るともやもやする。嫉妬心と決別できないから、よねに肩入れする。自分の小ささを再認識する日々だったが、それだけで終わらせないのが「虎に翼」だ。寅子の、あえていうなら「勝者」の苦しさを感じる展開となった。きっかけは妊娠だった。

 ある日、寅子は共に女性初の司法試験合格者となった明律の先輩と会う。法廷で活躍していたが、夫の故郷に行くことにしたという。彼女がこう言う。「婦人弁護士なんて物珍しいだけで誰も望んでなかった。結婚しなければ半人前、結婚すれば弁護士の仕事も家のことも満点を求められる。絶対に満点なんて取れないのに」。なんて今なんだ。「虎に翼」はうまい。

 この時の寅子、妊娠しているが家族以外には告げていないという状況だった。そしてこれ以降、ますます仕事を増やす。よねは「これ以上、忙しくしてどうする」と言った。寅子は「しかたないじゃない、私がやるしかないんだもの」と返す。使命感が寅子を支えていた。

 寅子が折れるに至る道も、実に今だった。母校での講演会を引き受ける。が、会場で倒れてしまう。医務室で恩師・穂高(小林薫)に妊娠していると話したのは、事情説明のつもりだったろう。が、ここから穂高の反応が「良き母になれ」一点張りとなる。驚き、「自分がここで止まったら、女性が法曹界に入る道が途絶えてしまう」と寅子は語る。世の中を変えるという使命感も語るが、穂高には全く届かない。「世の中はそう簡単に変わらない」「次世代が変えてくれる」。寅子は「はっ」と笑い、「なんじゃそりゃ」と吐き捨てた、ごく小さく。そして「家族が心配してますから、失礼します」と穂高のもとを去る。

 ここから続く場面は、のどかな日常だった。よね、そして明律同期の弁護士・轟(戸塚純貴)がいつものように昼に弁当を食べている。轟が「赤紙が来た、故郷に帰る」と明かし、「おまえの仕事が増えていくぞ」と寅子に言う。男性が出征するからそうなるという話で、「ええ、そうね」と寅子。彼が去った。よねが言った。「なあ、私もやれるだけのことはするから。おまえは1人じゃない」

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「1人だ」は「働く女性あるある」