実際、坂下に対する第一生命の優遇ぶりは異様としかいいようがない。

 まず、繰り返し口にした「特別調査役」という肩書だ。
 

ただ1人の特別調査役

「私は毎年第一生命でトップセールスマンになって全国1位で表彰された」

「初代、特別調査役に全国でただ1人、任命された」

 被害にあった先ほどの女性は、坂下から同じ言葉を呪文のように聞かされている。詐欺のための方便かと思いきや内容は正しかった。第一生命の営業社員は約4万人いるが、「特別調査役」は彼女のためにつくられた役職だったからだ。

 第一生命は1976年、「長年にわたり超優績を挙げ続けている高齢の生涯設計デザイナー(第一生命の営業職員の呼称)」を対象に「外務調査役」というポストを創設した。「異例の処遇ということを形で顕彰する」というものだった。創設当時、6人が任命されている。

 坂下は87年、55歳で外務調査役になる。原則60歳以上のポストだったが、「傑出した実績がある」として例外的に認められた。

 定年に関しても破格の扱いを受ける。

 当時、75歳が勤続上限だったが、坂下が75歳になった2006年、会社が80歳までの延長を決めた。坂下が80歳になると今度は85歳まで制度が再延長される。16年に会社規定の更新限度である85歳を迎えた段階で、とうとう会社は唯一無二のポストを創設し、任命した。

 それが、詐欺の現場で呪文となった「特別調査役」だった。

 「活動の基盤は山口県の地元有力銀行をはじめ法人・職域活動が中心で、700名弱のお客様を担当していた。膨大な保有契約および職域基盤の引き継ぎを趣旨として創設した」。第一生命はこのポストをあてがった理由を金融庁にこう説明している。

 これだけではない。

 受賞者の常連である坂下には、「第一生命を代表する生涯設計デザイナーの位置づけを社内外に明確に表現する」ため、「上席特別参与」という称号も与えられた。この称号は4万人の営業職員のなかでも15人ほどしか与えられておらず、そのうちオフィスに専用の個室を与えられたのは坂下も含めて6人のみだった。

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