生保レディが被害者らに渡していた手書きの借用証(画像の一部を加工)=被害者弁護団提供
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 被害総額約22億円に及んだ生保レディによる巨額金銭詐取事件。世間の注目を集めたこの事件はなぜ起きたのか?「業績を上げた営業職員を極端に優遇する第一生命の土壌にある」。取材を重ねてきた柴田秀並氏が背景を語る。近刊『損保の闇 生保の裏』(朝日新書)から一部を抜粋して解説する。

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生保レディ

 生命保険業界の販売チャネルは半世紀以上にわたり、現在にいたるまでいわゆる「生保レディ」と呼ばれる営業職員がメインだ。生命保険会社に所属し、同社の商品だけを売る。生命保険協会(生保協)によると、全国に存在する営業職員は2022年度時点で約25万人。そのうち約9割が、生保レディだという。

 そんな生保営業の「本丸」で業界を驚かせる事件が表面化した。2020年に発覚した、第一生命保険の営業職員による巨額金銭詐取事件だ。

 2020年10月、第一生命は、営業職員、坂下知子(仮名)を詐欺容疑で刑事告発したと発表した。保険契約を結んだ顧客などに対して、高金利での資金運用ができるなどと噓の勧誘をして、お金を集めた疑いが持たれていた。翌年5月、山口県警が坂下を書類送検。その際の説明では、被害は計25人、被害額は約22億円に及んだ。

 被害が高額なこと、発覚時89歳という高齢だったことから世間の関心を集めた。だが、この問題が注目に値するのはそれだけではない。業界の光と闇の両方を象徴するような事件だったのだ。 

 坂下の被害を受けたとされた人の大半は地元の名士だった。坂下の手口は、おおむね似通っている。第一生命が私だけに認めた「特別枠」があり、そこにお金を預けると年5〜30%の高い利息を得られる—。という話を有力者たちに信じ込ませた。 
 

 繰り返された「呪文」

 だが、こうした特異な存在を生み出してしまった土壌にも問題がある。第一生命は2020年末に報告書を公表し、「多くのお客さまのご契約をお取扱している営業員(以下、優績者)の特権意識を醸成させてしまったことや、当社社員による優績者への遠慮意識など、企業風土や体質そのものにも問題があったと認識している」と認めている。

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柴田秀並

柴田秀並

しばた・しゅうへい/1987年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2011年、朝日新聞に入社し、現在は経済部記者。金融担当が長く、かんぽ生命保険の不正募集などを取材。社会部調査報道班に在籍中は国土交通省の統計不正や同省OBによる人事介入問題の取材にも携わった。著書に『生命保険の不都合な真実』(光文社新書)、『かんぽ崩壊』(共著、朝日新書)がある。

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