コンクリート上で行うためミスが大きなけがにつながる。骨折や脱臼経験もあって、お守りは大好きな映画「テッド」のクマのぬいぐるみ。持参すればケガしないというゲン担ぎも(写真:AP/アフロ)
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 AERAの連載「2024パリへの道」では、今夏開催されるパリ五輪・パラリンピックでの活躍が期待される各競技のアスリートが登場。これまでの競技人生や、パリ大会へ向けた思いを語ります。

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 東京オリンピックで日本勢が金銀を独占したスケートボードの女子パーク。五輪競技となって2大会目のパリ出場を目指し、目下熾烈な代表争いの渦中にある。

 高速ライディングと空高く舞いあがるエアに定評がある草木ひなのは2021年、競技歴わずか5年ほどで日本選手権優勝。23年の世界選手権(イタリア・ローマ)で銀メダルを獲得した新星だ。

 この競技は他と違ってコーチをつける選手のほうが珍しいが、実は今年1月からコーチをつけている。アマチュア最高峰の国際大会「タンパアマ」の優勝経験を持つプロライダーの冨川蒼太さん。もともと知り合いでライダー仲間だったため、会えばアドバイスを求めたりする間柄だった。

 何より、苦手だったリップトリックを克服したかった。リップとはコース最上部の縁の部分。ここをボードのボトム部分でゴリゴリと削ったり、スーッと滑ったりする技を指す。繊細なボードコントロールが要求され、難易度が高い。その分高得点につながる。

「リップトリックは怖いっていう気持ちが本当に強かった。やらなきゃダメだっていうのはわかったのですが……」

 ひとりで練習していたときは、新しい技に挑んで1日に3回できたら「よし、次の技行こうってOKにしていた」。ところが、冨川コーチから「3回じゃ少なくね? 最低でも5回じゃね?」と言われた。この成功回数のハードルは5回から10回、20回と徐々に増えていった。20回クリアすると、「3回じゃ足らないや」と思えるようになった。

「ただ、連続5回とかもあるんですよ。一番ツラ(辛)ってなるのが4回まで行って、5回目乗れなかったとき。一番辛い~」と頭を垂れつつ笑顔で語ってくれた。

 出身地の北海道から草木の住む茨城県に拠点を移し、草木が通う練習場から徒歩圏内に住まいを構える冨川さんは、「安定感が出てきました。反復練習の重要性も実感してるんじゃないかな」とその成長に目を細める。弱冠21歳のコーチの強みは「技を実際に自分がやって、見せてあげられること」だと言う。こうやってごらんよと可視化することができるのだ。

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