空気を読まない存在も必要

 一方、ASDの人が見せる高い集中力は、データ分析などの専門性の高い職種で力を発揮することがあります。

 海外では、マイクロソフトなど大手IT企業も積極的に発達障害の人を採用し、ソフトウエア開発など、特性を活かした活躍の場を提供する試みが行われています。いずれ日本にも、この波がやってくるかもしれません。

 また、本を1回読んだだけで暗記できるなどのケースは特殊な例ですが、ASDの人の中には、記憶力に優れている人が少なくありません。この特性は、定型発達の人にはなかなか持つことのできない優位性にもなり得ます。

 些細な変化や違いがわかる感覚過敏傾向の人は、その特性が芸術面で発揮されることがあります。歴史上の画家の中には特定の色を好んで使った人もいますし、独特なノイズを取り入れる音楽家もいます。実際、後世に名を残す芸術家には、発達障害的な特性があったのではと思われる人も少なくないのです。

 理屈で納得しないと動かない傾向は、すなわち、「感情に流されず論理で考える」という長所ともとらえることができます。

 まだまだ空気の読み合いが重視される日本の社会では、「それを言うと〇〇さんが反対する」など忖度が働きそうなとき、俯瞰した立場で論理的に考えられる、この特性が活かされるはずです。何より、職場でも学校でも、一人くらいは、こうした〝空気を読まない〟存在が必要ではないでしょうか。

 発達障害の人は、決して能力が低いわけでも、人間性に問題があるわけでもありません。今後、社会が多様性を認める潮流をさらに強めていけば、〝見ている世界の違い〟は、より「個性」「強み」として発揮されやすくなっていくでしょう。

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岩瀬利郎

岩瀬利郎

いわせ・としお/精神科医、博士(医学)。東京国際大学医療健康学部准教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士、公認心理師。メディア出演も多数。

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