机に並ぶ大量の大根の煮物と、それを撮影するライター陣。同じ物が大量にあると、人は混乱して自然と笑みがこぼれてしまうことをこの日学んだ(写真:伊ケ崎 忍)

「無駄づくり」をテーマに発明を行うクリエイターの藤原麻里菜(30)は、かつてデイリーポータルZで執筆していた文筆家でもある。藤原は「世の中に愉快な無駄を増やすと、きっといい方向に導かれると思う」と話す。

「林さんは洞察力がすごくて、好きなことを好き勝手にできる素敵な人。何よりアイデアを形にしたいという思いが強い。そしてできた物がたとえ雑でも、その雑さを愛らしく思えるところが林さんにしかない感覚だと思います」

 愉快なことは、役には立たないかもしれないが、無価値ではない。

 こうした林の精神と個人サイトで培ったノウハウを注ぎ込んで、2002年にニフティで立ち上げられたのが「デイリーポータルZ」だ。

 林は2000年にジー・サーチからニフティに転籍。そこで旅行サイトの運営を任されるが、面白さが見いだせず担当から外してもらったと言う。

「それで暇になったんだけど、やってる感は出さないといけないなと思って……(笑)。目をつけたのがポータルサイト。そのときニフティには車とか就職情報とか、今でいうバーティカルサイトがいっぱいあったんですけど、その入り口のページが放置されてたんです。そこで『僕がここをちゃんとします!』って上司に提案しました」

 こうして始めたポータルサイト運営は、当初、各サイトの更新情報やリンクの掲載だけにとどまっていた。しかし「どうせやるなら面白がりたい」という欲求がむくむくと顔を出す。3カ月後には「夏休みの自由研究」と題して、林が気になるネタを独自に取材した記事を掲載。これが読者に好評を博すと、更新頻度を週1回から毎日に増やし、「母屋を乗っ取る」形で独自コンテンツをメインとしたサイトに変わっていく。

「最初は『ハマグリの食べ比べ』みたいな記事を上げていたけど、すぐに『徳川埋蔵金があると言っているおじさんの家に行く』とか個人的に気になることを掘り下げる記事が増えていきました」

 林自身は「評判が良かったのかはわからない」と語るが、アクセス数は順調に増加。固定ファンを獲得すると同時に、多様な個性や専門領域をもつライターが参加するようになる。当初は林1人だった編集部も、08年には6人体制となった。

キムタクの写真集を買って同じポーズをしている様子。キムタク以外の人間が笑いながら舌を出すと、うっすらと狂気が滲み出てしまう。やはりキムタクはすごい(写真:伊ケ崎 忍)

(文中敬称略)(文・澤田憲)

※記事の続きはAERA 2024年6月3日号でご覧いただけます

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