紀平は、自らを追い込むタイプのスケーターだ。2019年11月に札幌で行われたNHK杯で、紀平はロシアのアリョーナ・コストルナヤに次ぐ2位となった。当時左足首の怪我により得意としているルッツを構成から外していた紀平は、一夜明けての取材対応で危機感を口にしていた。
「本当は休めば治るんですけど、しっかり練習しないと……今はやっぱりどの試合でもノーミスを狙うためには、一日でも休むと危ない状況なので」
現在苦しんでいる右足首の怪我については、骨折と診断されるまで時間を要したという。ストイックな紀平が、北京五輪シーズンを前にして練習を休むという選択ができなかったのは無理もないことといえる。
しかし、全力で練習できない日々が続く中で、紀平はネガティブにならない方法として、好きなことをして毎日を充実させるようになったという。SNSで披露した歌も、きっとその一つなのだろう。
今年4月、紀平は、インスタグラムのストーリーに氷上練習の動画も投稿しており、コメントを添えている。
「今はまだ無理できない少しずつの過程ですっ!」
心身を整えた紀平梨花が勝負のリンクに戻ってくる日を、多くのファンが待っている。(文・沢田聡子)
沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。フィギュアスケート、アーティスティックスイミング、アイスホッケー等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。2022年北京五輪を現地取材。Yahoo!ニュース エキスパート「競技場の片隅から」