「おいしい?」
「でかすぎ。こんな大きさじゃ味わわせる気ないわ、これ」
「味わうってよりも、食べるってことが目標になりそうなサイズじゃんね」
「で? どうすんの?」
「いや、まあ、よりは戻したんだけど。だからまあ、付き合ってくんだけど」
「ていうか理玖くんの何がいいわけ? 女とか嘘とかバカとか色々ずっと最悪じゃん。話聞いてると本当に散々だよ綾香。マジでただのバカな自己中野郎じゃん」
「うーん、そうだね。でもやっぱ優しいんだよね」
「ばかだねえ」

 そしてまた二口目を頬張りにテーブルへと顔を近づける奈津子を見ながら、ばかだよねえ、と、呟くしかなかった。

「恋人なんだから優しいのは当たり前だし、あんたのこと好きな男なら全員優しいから。小松さんだって雄介だってあんたのこと好きなんだからめっちゃ優しいじゃん。てか雄介じゃだめなの? あいつあんたのことめっちゃ好きじゃん」
「うーん、雄介は優しいよね」
「ほら。あいつもバカだけど理玖くんよりはいい奴だと思うよ。別にかっこいいじゃん、雄介。あんたが理玖くんと付き合い長いのは分かるけどさ、マジでもっと他にいるって。綾香ここ最近ずっと悩まされてんじゃん」
「そうだね」
「理玖くんの『大事にする』って口だけじゃん? あんた洗脳されてない?」
「でも大事にしてくれてた時も」
「もう、大事にされてないじゃんそんなの。あんたはあんたを大事にする理玖くんのこと言ってるのかもしれないけど、もうその理玖くんって結構前からこの世のどこにもいないと思うけど」

 奈津子は缶のまま出されたコーラのプルトップを指ではじくようにして開け、いや缶のまま出すってアメリカを見習いすぎだよね、と言った。

《ごめん、今日疲れてしまって。またゆっくり会おう》

 私が会いたいわけじゃないのに、と、思わず口からこぼれてしまった。私だって時間がある時は映画館へ行ったり友達と食事に出かけたいけど、この脆弱な関係性を維持するために理玖と会う時間も必要だと理解している。だから、退勤してから理玖との待ち合わせ時間まで、待ち合わせ場所の近くにある大通りに面するカフェのカウンター席で、大きなガラスの壁から通りを眺めながら時間を潰して、トイレで化粧もそれなりに直して、そろそろ理玖のほうも退勤時間かなと思っていた頃に、唐突に入った連絡だった。

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得体の知れない「これ」の修復は不可能だということにも、私は気がついている気がする