《えらいじゃん! 長かったね。あんたはよく頑張ったよ。お疲れ様!》
《ありがと。長い間ごめんね。私なんかおかしかったんだと思う。今さら急に気づいた》
《ばかだねえ!》

 奈津子からのメッセージを見て思わず笑ってしまった。笑えて、しまった。大丈夫。寂しくない。理玖は別れて寂しく思える人では、もうとっくになくなっていたことを、きちんと受け入れなければならないのは私のほうだった。かつて大事にしてくれたというその記憶に執着し、一度でも裏切られたことを、うやむやにするために許すという行為で逃げていたのは私だった。むやみに不必要な米印を増やしていくだけになることを、理解していながらも、違う決断ができなかったのは、彼に対する愛情でも優しさでもなく、私自身のひ弱さでしかなかった、こんなに傷つき疲弊してしまう前に、逃げなければならなかった。ならなかったのだ。

 理玖に大事にされた日々の記憶が、これからの私を苦しめるためだけに存在するのならば、そんなものは葬ってやらねばならない。私は、理玖ではなく、もっと私のことを大事にしてくれる誰かにこれから出会わなければならないのだと、はっきりと、強く、思った。顔をあげれば、ガラスの向こうには多くの人たちが通りを歩いて過ぎ去って行く。ふと、唐突に、ここは東京なんだから、と、ぬかるみなくさらりと思えて、明日は六本木に映画でも観に行こうと考えてみれば、胸のあたりが、ぐぐっと跳ねた。こんな気持ちになることは、なにかとても久しぶりのことかもしれないなあと、ガラスに反射した自分の顔を見つめると、それもまた、久しぶりに見る女の顔である気がした。

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