浮気され、嘘をつかれ、お金を貸して欲しいと頼まれ、都合が悪くなれば音信不通になり、責めれば不機嫌になり、話し合いは避けられ、自分が寂しくなれば連絡をしてきて私に謝る。疲弊した私がいくら我慢し、許し、あらゆることをごまかしながらやってきても、何の意味もなかった。理玖を許し続けていたのは、もう一度ちゃんと大事にしてほしかったからで、それは紛れもなく、理玖のことが好きだったからで、もしかすると今度こそはちゃんとしてくれるのではないかと、あの時のようにまた幸せな日々を送れるのではないかと期待して、躓いて、嫌気がさし、謝られ、また期待して、そうしてただ、私たちには、米印の数が増えていっただけだった。この人はきっともう、何があっても絶対に無理なのだろうということに、あの聞いたことのない、ぱつん、という音は、魔法を、あるいは、呪いを解くためだったみたいに、あの瞬間にするすると色んなことに気がついてしまった。

 理玖と別れることは、いくら考えてみても、寂しいことのはずだった。この二年間、いくらでも別れる機会はあったけれど、それをしてこなかったのは、彼と離れたくなくて、彼が他の女性とこの先付き合っていくことを想像したら身体ごと引きちぎられそうな感覚に陥っていたからだった。しかし、別れることが寂しいと思いこんでいた、私が愛しいと思いこんでいたあの理玖は、本当にもうこの世のどこにもいなくなっていたらしい。誰かとの別れはいつも寂しい。ただ、それが寂しいだけで、理玖と別れることが寂しいわけなど、理玖と一緒にいる未来が立ち消えることが虚しいわけなど、もう、どこにも、ぱつんと、なかった。

《自分が私にしてきたこと、冷静になって考えてみてほしい。何度も何度も我慢して、許してきたけど、理玖は何も理解もせず、変わろうとしなかったね。こんな思いさせられない人と幸せになります。もう二度と連絡してこないでください》

 それからすぐに奈津子にことの顛末の連絡をいれ、しばらくすると画面は理玖からの着信画面になったけれど、もう何も心が震えることがなくただ着信画面を眺めていた。そしてこれも、いつものことでは、なかった。いつもなら、何かを期待して、体の奥の方が震え、応答してしまっていたけれど、何度も切れては画面にあらわれる理玖からの着信画面に、もう何も思うことはなかった。そして、それからすぐに、奈津子からメッセージが入った。

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奈津子からのメッセージを見て思わず笑ってしまった