理玖は意を決したように、まるで何か覚悟でも決めたかのようにそう言って、私は今日もまた、米印みたいだなあと思う。CDに付いていた歌詞カードのサビの部分は上に米印が小さく打たれていて、後半になると「米印、繰り返し」と略されている。理玖はこういう時に、いつもその言葉を初めて発するみたいな姿勢で何かを言うけど、その大半はただの米印で、あの時やあの時と同じことを言うだけの米印部分を、懇切丁寧になぞって言ってくることさえもやっぱり、いつものことだった。
「じゃあさ、まさやさんに電話していい? 俺もすげえ相談してたから」
そう言って理玖はスマートフォンを取り出して私の了承もなく「まさやさん」に電話をかけ、もう一回チャンスもらいましたと笑い、ほら綾香、と、スマホを私に向ける。「まさやさん」によかったねと言われ、私はありがとうございますと言えば、自分の体がするすると縮んでいき、そのまま米印の右下の点にでもなってしまうみたいだった。
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「え? 結局またより戻したの? なんで?」
運ばれてきたハンバーガーが予想より遥かに大きく、どう手をつけようかと前かがみになりまじまじとパティやレタスの様子を見ていた奈津子が、ふっと顔をこちらに向けてそう言った。原宿のカフェの屋上にあるテラス席は、秋も過ぎるころだというのに日差しが直接に当たってきて、ニットではなくて半袖で来るべきだったと私は小さく後悔していた。
「いやあ、謝られたから許すしかないのかなって」
「あんたいつもそうじゃん。なんか理玖くんずっと同じことの繰り返ししてない? いつも似たようなことやらかしてんじゃん」
「うん。そうなんだけど。繰り返してるのは私も一緒なんだよ」
「何をあんたは繰り返してんの?」
「許してる」
「ばかだねえ」
そう言って奈津子は笑って黄色い紙に雑に包まれたハンバーガーを両手でわしづかみにし、手を口元に近づけていくのではなく、テーブルに置いたままの手元に向かって顔を持っていってから慎重に一口目を頬張った。