茂木さんの研究テーマである「クオリア」について自分のパソコンを開いて説明してくれたが、とても難しかった……(撮影/小山幸佑)

 企画書や説明書のような文書の作成はAIに取って代わられてしまう––––。しかし、「一人の人間が人生を賭けて、あるいは誰かに心を込めて書くメッセージのようなものは、AI全盛の時代にこそ高い価値を持つのではないでしょうか」。

 茂木さんの研究室では「直観」もホットなテーマだ。

「脳腸相関を研究しています。脳と腸は互いに影響を及ぼし合っているようです。腸は第2の脳とも呼ばれ、人間の直観は脳と腸が対話して生まれてくるといわれます」

 賢さという意味で人間はAIに勝てなくなってきたが、「直観に基づく選択が人間の最後のとりでだと思います」。

 茂木さんはランニングが大好き。東京マラソンを何度も完走し、『走り方で脳が変わる!』(講談社)と題する著書もあるほどだ。茂木さんにとって走ることは体との対話であり、直観力につながっている。

AIと人間の協調は難しい

 一方、AIの進化は厄介な問題も引き起こす。いや、すでに引き起こされている。

 2023年秋に「フランスでトコジラミが大発生」という未確認情報が広がった。これはフランス社会の不安定化を狙ったロシア発の人為的増幅という見方まで出た。

 日本でも2月下旬に「新NISA、規制か。財務大臣『円安の元凶』」というフェイクニュースが流れた。よく見れば相当低レベルの記事だったのに、名のある経済の専門家やインフルエンサーを含め、多くの人が一瞬、信じてしまった。

「うーん、AIと人間の協調は難しそうです。SF作家でコンピューターサイエンスの専門家でもあったヴァーナー・ヴィンジの唱えた『ヴィンジの不確実性』と呼ばれる問題があります。十分に発達したAIの振る舞いを人間は予測できなくなる、というものです。

年齢の低い子どものすることを、大人はある程度予測できます。でも知性の高い人のすることって、当初は理解されにくくて、後になって伏線が回収される形になりますよね。『ああ、こういう意味だったのか!』って」

「ChatGPT4はIQ約135(諸説あり)という推測があります。ノーベル賞受賞者の平均が140といわれているので、これを超えるAIが出てくると、ヴィンジの不確実性の問題(AIの振る舞いが予測不能になる)が起こるでしょう」

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ
次のページ
「MARCH呼び、軽薄」の理由