古賀茂明氏
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 5月20日、予定されていたサウジアラビアのムハンマド皇太子(ムハンマド・ビン・サルマン:略称MBS)の訪日が延期されたというニュースが流れた。国王の健康状態悪化が理由なので、大きな問題ではなく、その扱いも小さなものだった。

 サウジの皇太子MBSといえば、大胆な経済改革主義者であることで知られる。特に有名なのが、MBS肝煎りの未来都市プロジェクト「NEOM(ネオム)」だ。

 総面積は2万6500平方キロ(ベルギー並みの面積)で、2024年には第一弾となる「シンダラー」が完成し、3軒の高級リゾートホテルが開業予定。26年開業予定の砂漠の中のスキーリゾート「トロジェナ」では、なんと29年に冬季アジア競技大会が開催される計画だ。

 さらに度肝を抜かれるのは、幅200メートル、距離170キロにわたるライン上に約900万人が居住する直線状の高層都市「ザ・ライン」を建設予定で、最初のモジュールは27年開業予定だ。

 このプロジェクトには世界中の企業が関心を示していて、日本企業にも大きなビジネスチャンスがあるかもしれない。

 ということで、岸田文雄首相は、サウジとの協力は「売り」になると考えているのだろう。

 一方で、この皇太子MBSは、権力欲が強く、自己の力を拡大するためなら手段を選ばないという「怖い」裏の顔を併せ持つ独裁者として知られる。

 イスタンブールのサウジ総領事館で起きたサウジ人記者の殺害事件を巡り、米国家情報長官室は21年2月、MBSが殺害を承認したと断定する報告書を公表している。

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