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つい最近、母とのベッタリな関係が終わった。私のアパートに母が来たとき勝手に片付けをされ、仕事の書類を間違えて処分されたことがきっかけだった。母を突き放すようでつらかったけれど。
複雑な家庭環境と戦争で傷ついた祖父が母に暴力を振るい、それが共依存という形で私の人格形成に影響を与えた。母は暴力を振るわないように細心の注意を払ったが、祖父の前からの影響が私の中にも残っている。
私が子どもを授かったらどんな子育てになるのだろう。子どもとはいえ他者。1人の人間として尊重したいけれど……周囲の先輩は「完璧な子育てなんてないわよ」と言う。そうだ、母は母なりに子育てを頑張ったんだ。
関係のいびつさを母が自覚していたかは分からない。だから、直接言えないけれど伝えたいメッセージがある。
お母さんへ
必死に愛してくれてありがとう。でも、脈々と続く負の連鎖に我々は抗えなかった。だから32歳の私はまだ、子どもを授かる覚悟が固まってません。出産年齢の心配をかけてごめん。
もう母が求める私ではないけれど、欲しがっていたワンピースを贈ります。どうか自分を労わって、満たされた還暦を父と迎えてください。
「AERA dot.」鎌田倫子編集長から
親から子へ脈々と受け継がれる人間の負の側面を直視し、それ言語化するのはなかなか勇気のいることです。
町中華さんはどんな気持ちでこのエッセーを書いたのでしょうか。もうあなたには振り回されないという母親への決別宣言なのか、母親との悪い関係は過去に置いていくんだという自分自身に対する決意表明なのか。
「どうか自分を労わって」。この一言に、渦中を脱する苦しさと、それでもなお消えない親への情を感じました。