危惧は的中した。町監査委員は昨年9月に公表した決算審査の意見書で、事業の計画書がない▽救急車の仕様書の作成に受託企業が関与したことが推察され公平性に欠けるのではないか――などと指摘した。町議会も事業の背景に何らかの不正があったのではないかとみて、地方公自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置し、調査に乗り出している。Aさんの処分はまさにこの渦中で起きた。
公益通報に該当なら処分は問題
監査委員事務局への情報提供が正当な行為と言えるかどうか。そこが大きなポイントになりそうだ。Aさんは「紛れもない公益通報だ」と主張する。公益通報とは、公益通報者保護法で規定する内部通報のことで、目的は公益に資すること。労働者が自分の働く職場の不正を勤務先の窓口や、監督官庁、マスコミなどに通報することを指す。通報者は保護の対象となり、勤め先は懲戒処分など、通報者に不利益な取り扱いをしてはならない。
Aさんの情報提供後、監査委員はこの事業に問題ありとした。この流れをみれば、Aさんの情報提供は典型的な公益通報であるように映る。なぜ町はAさんを懲戒処分にしたのか。町側の言い分はこうだ。
「権限外の情報を勝手に取得」と町側
・処分は、企業版ふるさと納税を利用した事業のみでなく、町のさまざまな事業について職務上の権限を逸脱して文書の収集を行っていたという事実による
・公益通報の準備行為として職務を逸脱した情報収集が認められれば、職員としての守秘義務や情報セキュリティー対策の順守などは意味をなさなくなる
・当該職員が指摘する事案について、具体的に法律のどの部分に触れるのかの明示がなく、ただ単に個人的な思慮のもとに内部通報することは公益通報者保護法の適用外となる
・職員には3回にわたって事情聴取したが、「内部通報」や「公益通報」という発言はなかった。新たに弁明の機会を与えたところ、突如として一連の行動の理由が内部通報、公益通報へと切り替わった