適切な財政投資が必要

 そして、「仮住まい不足の深刻な状況をイメージすると、住宅被害を軽減することがいかに重要か気づく」と言い、こう説く。

「改めて、自宅の耐震化や、火災になった場合の初期消火のための消火訓練が重要です。分譲マンションの場合は、被災時の修理や建て替えなど合意形成の難しさが指摘されています。まずは、居住者の『連絡リスト』を整えておくことも大切でしょう。自治体は、仮設住宅など今できる対応を確実に運用できる準備に加えて、大量の仮住まい不足に対する追加的な検討や準備が求められると思います」

 京都大学大学院の藤井教授も、対策の必要性を強調する。

「事前の対策をしっかり取ることで、首都直下地震の被害を約4割減らすことができます」

 具体的には港湾や漁港の耐震強化や、住宅を震度6強から7の揺れでも倒壊しない「新耐震基準」を満たすよう建て替えること。中でも重要だというのが「道路」だ。元日に起きた能登半島地震でも、主要道路が被害を受け、一部地域で外部から救援救護ができない「孤立化」が生まれた。道路が強靱であれば災害による被害は小さく、復旧のスピードも速くなる。とりわけ首都圏は、道路が壊れると経済活動がストップする。高速道路や自動車専用道路といった高規格幹線道路を整備し、無電柱化を進め、橋梁の耐震補強が必要だという。

「こうしたインフラの事前対策に公的支出として21兆円以上かけることで、復興年数を5年ほど縮めることができ、954兆円とされる経済被害のうち369兆円、およそ4割縮小できます」

 さらに、21兆円の投資によって既述した計389兆円の財政赤字も、復興費が137兆円、税収の減少が14兆円それぞれ圧縮され、計151兆円の財政効果があると、藤井教授は言う。

「21兆円という数字だけ見ると、そんな巨額な投資はできないと思うかもしれません。しかし、被害総額1001兆円に比べれば、桁が二つも違います」

 長い目で見れば、防災投資は費用対効果が高く、国民経済が救われ、財政健全化の効果もあるとして、こう続ける。

「リスクがある社会において、適切な防災投資は財政健全化のために必要。しかも、私たちの命が救われ、職場も街も経済も守られます」

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年5月20日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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