2022年12月、自身の提供精子で生まれた5歳と3歳の女の子と。ドナーとして道義的責任を果たしたいという(オーストラリア、キャンベラ/ディランさん提供)
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子どもの出自を知る権利をめぐって「精子バンク」にあたらめて注目が集まっている。子どもの権利を尊重した提供者は、その後どんな人生をおくるのか。海外の事例を取材した記事を再配信する。(「AERA dot.」2024年4月22日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時)

【写真多数】「自分が提供した精子」で生まれた子どもたちと交流するディランさん

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 大学時代の精子提供で、子どもが100人近くいることがわかった男性(33)がいる。9カ月前、ディラン・ストーン=ミラー(以下、敬称略)はソフトウェアエンジニアの仕事を辞めた。自分の精子で生まれた子どもたちに会うために、バンに乗り、アメリカ全土を3カ月旅した。

「父親」という存在の重要性

 ディランが「父親」として責任を果たそうとするのには、子育てをした経験も関係している。

「私には前妻がいますが、彼女が前の結婚でできた男の子を連れてきました。その子どもが2歳から7歳になるまで5年間一緒に育てた経験があります」

 この5年間が、ディランに父親の存在の重要性を教えてくれた。

 だが、1人の男性から100人近い子どもが誕生している現状を、どう捉えればいいのか。

91%の子どもが望むこと

 ディランが実際に直接会った母親たちに聞くと、ほとんどの人が「1人の男性から誕生する子どもは10人である」と精子バンクから教えられていた。

 ディランは当時2021年3月の時点で77人の子どもがいたが、その事実を母親たちに伝えたのはディランだ。今も、最新の人数を伝え続けている。

「生まれた子どもの母親の半分以上は連絡してきませんが、子どもが18歳になって、精子バンクに連絡すると私の個人情報がわかるようになっています。子どもの出自を知る権利はすこぶる重要です。提供精子や卵子で生まれてきたいわゆるdonor conceivedの人の91%はドナーと何らかの関係を持ちたいという研究結果があります」

 つまり8~10年も経てば、子どもたちの多くが18歳になるので、ディランに会おうとする子どもや母親がさらに増えるということだ。

「子どもの人生に私を含めるかどうか。含めるとしたらどのように含めるかは母親次第です」

 母親がそう選択した場合、子どもはディランのことをどう呼ぶのか。

「家族によって呼び方が異なります。最も多いのはDonor Dylanで、その次がファーストネームのDylanです。私をDadと呼びたい子どもが増えています。その理由のひとつは、父の日に学校で父親に渡すカードを作るからです」

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遺伝上の父親に会う権利