ドナーとしての道義的責任
ディランは、各母親と相談し、子どもに直接会う頻度や電話やビデオコールする頻度を決めている限り、自分を子どもの好きなように呼ばせることは問題ないと思っている。
しかし、これだけの数の子どもがいると、「それぞれの期待に応じること」がフルタイムの仕事になってしまう。実際、彼は仕事を辞めた。
「アメリカでは毎年ドナーが介入して生まれる子どもは3万~6万人います。その家族とつながり、子どものニーズをできるだけ満たすことは、私のドナーとしての道義的責任だと考えています。感情的責任でもあります。精子提供で生まれた子どもが遺伝上の父親に会えないような社会は、許されるべきではない」
だが、ディランは自分の精子で生まれた子どもの家族との関係を、どう位置づけるべきかで呻吟(しんぎん)した。セラピストにも相談したし、精子バンクの社内カウンセラーにも相談したが、いいアドバイスはもらえなかった。
スプレッドシートで管理
「これだけ、遺伝子上の自分の子どもがいると、精神状態を維持するのは極めて難しい。私の心は子どもの数と同じだけの数の方向にただただ引っ張られている状態です。フェイスブックを見ると、あの子は今病気だとか、腕の骨を折ったとか、わかります。それぞれの子どもに愛情を感じているので、子どもの状況を知るたび、精神的に消耗してしまう」
ディランはスプレッドシートを作って、各家族からの要求や期待を記入している。
「スプレッドシートにはそれぞれの家族とのコミュニケーションの頻度、どう呼ばれているか、何を期待されているかなどを細かく記入しています。でないとうっかり間違った表現を使って子どもを傷つけることが起こるかもしれない。それは許されないことで、考えるだけで精神的に疲れます」