そしてジャンプと表現という、今の葛藤について語る。

「昌磨は素晴らしい技術を持ちながら、美しい芸術家です。昌磨の芸術性は、自分を偽ることがなく、大きく見せようとすることもなく、ただ美しい心を演技に反映するところ。今日の演技には昌磨の独創性が見えました」

 ジャンプが高度化しても、宇野から独創性という芸術面が消えることはない。宇野が見据える新境地が、少しずつ形になってきていることを示唆した。

 世界選手権まであと約2カ月。宇野は迷いを吹っ切り、頂点を目指す。

「この3年の中で一番難しい戦いになります。僕の競技人生で最高の演技をしないと勝てないことは分かっています。無難な演技をしても2、3位にしかなれない。

2023年12月に中国・北京で行われたGPファイナルで初優勝したイリア・マリニン(19)。世界選手権3連覇を目指す宇野にとって最大のライバルだ(写真:AP/アフロ)

 でも僕が持てる力をすべて出し切ることができれば、ギリギリの戦いにはなるかなと、思っています。これからの3カ月を利用して、優勝をちゃんと狙える、(イリア・)マリニン君と戦えるような練習をしたいなと思います」

 再び宿った競技者としての闘志。その確かな炎を胸に、宇野は一歩を踏み出した。

(ライター・野口美恵)

AERA 2024年1月22日号より抜粋

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