「ふーッ」

 溜息をつきながらモニターを眺める。料金を安い順に並べ変えてみる。ゲストハウスやホステル、エリアによっては民宿がずらーッと並ぶ。最安値の世界はドミトリーになる。ドミトリーというのは、部屋に複数のベッドが並ぶタイプで個室ではない。

 この種の宿のアメニティはまちまちだ。トイレや浴室は共用が基本だが、そこに歯ブラシや髭剃りが置いてあることもある。宿のサービスなのだが、宿によってはまったくないこともある。海外の安宿と同じだ。

 こうなると、ザックに詰める洗面用具や衣類は海外への旅と同じになってくる。

『シニアになって、ひとり旅』。北海道や東北、小豆島……。さまざまな土地をめぐった。その旅で僕は、海外に出るときと同じ荷物を背負っていた。

 泊まった宿はさまざまだ。適当なゲストハウスやホステルがないときは、安いビジネスホテルを選んだこともある。ある街でビジネスホテルと旅館の中間のような宿に泊まった。宿代は五千円ほどだった。チェックインをすると、こんな説明を受けた。

「人手不足で朝食のサービスは中止しています。それと入り口のドアは夜八時に閉まります。それ以降に帰るときはこの鍵でお開けください。夜の八時から朝の八時までスタッフは誰もいなくなるので、連絡はこの電話番号に。すいませんねぇ。なにしろ人手不足で……」

 初老の男性スタッフはそう頭をさげ、入り口のドアの開け方を丁寧に説明してくれた。鍵を受けとり、部屋に向かおうとすると、背後からまた声をかけられた。

「浴室に備えつけシャンプー、リンス、ボディーソープはありますが、それ以外はありません。あそこのテーブルに置いてあります。それと浴衣はありません。クリーニング業者が人手不足で対応してくれないものですから。申し訳ありません。寝巻はありますか?」

 こんなときのためというわけではなかったが、ザックにはTシャツとハーフパンツが入っている。部屋の階へのエレベーターに乗りながら、いったい何回、人手不足という言葉を耳にしたのだろうかと思った。

 日本はいま、当たり前だったサービスが少しずつ消えつつある。宿もその流れのなかにある。日本式の宿のサービスが難しくなりかけていた時期にコロナ禍に見舞われたということか。これからの節約旅は、この状況を受け入れるしかない。しかし僕のなかには不満はない。日本の安めの宿は、世界と同質のサービスになってきた。同じ荷物で旅をすればいい。意外としっくりと日本を歩いている。

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