『ドラゴン桜』や『インベスターZ』、『エンゼルバンク』などの代表作を持つ漫画家・三田紀房さんにおすすめの本と書店について聞いた。AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より。
* * *
本屋さんって、立ち止まれる場所という気がするんです。ちょっとした空き時間の時間潰しといったら失礼ですが、入っていろいろ見るだけでホッとできる、安心できる場所。本屋さんのない商店街は、やっぱり物足りなさを感じてしまいます。海外の本屋さんって格調高い立派な店構えの所が多い印象ですが、日本の本屋さんは市民と同じ目線でいてくれて出入り自由な感じがいいなと感じます。
僕の好きな本は、向田邦子『思い出トランプ』と三島由紀夫『青の時代』、そしてドストエフスキー『罪と罰』の3冊です。この3冊に共通するのは、実はわかりやすい、読みやすいという部分なんです。『青の時代』は実際の事件を題材にしたもので、三島作品の中では読みやすい。『罪と罰』は古典ではありますが、これがなければ打線が締まらない4番バッターみたいな存在ですね。途中ややこしくなってきそうでも、筋はちゃんと分かる。
成長しようという思い
僕の作品づくりは、高尚なものよりも分かりやすさ、引っ掛かりなくサクサク読めるということを非常に大事にしています。これらの本のようになるべく分かりやすく、なるべく伝わりやすくということが僕が物を作るうえでの哲学になっています。
3月に発売した僕の半生記『ボクは漫画家もどき』(講談社)に、「僕は自分というものを信用していません」と書いています。自分のアイデンティティーは絶対に大事ですが、それだけで生き続けるのはものすごくストレスフル。人からのアドバイスを受け入れることによって、自分では気づけなかった能力が新たに花開くこともあると思うんです。
読書とは学習で、学習しよう、何かを吸収しようという意欲が人を成長させると僕は思っています。それがなくなると成長も止まる。読書って字を目で追って、同じ姿勢でいなきゃいけないから意外と体に負担がかかります(笑)。その負担に抗って吸収しようという気持ち、それは自分が成長しようと思う気持ちとイコールだと思うのです。本を読もうと思う限り、自分は成長をしようと思い続けている。それを確認できるバロメーターでもあると思っています。
(構成/ライター・太田サトル)