イラン側はこの時、ファフリザデの死をイスラエルによる暗殺だと受け取った。
死亡した翌日、テヘラン中心部にある国会前の広場で抗議デモが起こった。新型コロナウイルスの感染が広がり続ける時期だったが、たくさんの人たちが集まり、肩をぶつけ合いながら「イスラエルに報復を!」と叫んだ。その後、一眼レフカメラを構える私の目の前で、イスラエルの国旗が燃やされた。周辺には黒煙が立ち上り、プラスチックが焼ける嫌な臭いが鼻をついた。
さらに2022年5~6月には、イスラム革命防衛隊の幹部やイラン軍のエンジニア、航空技術者、地質学者といった軍人や軍の関係者の少なくとも計7人が突然死するなど不審な最期を遂げた。イラン側はこれらもイスラエルの仕業だと見ていて、中東地域におけるイランの軍事的な影響力をはじめ、核開発やドローンの製造に制約を加える意図がイスラエルにあったと受け止められた。
私が現地にいる間、イラン側はこうした事態に見舞われても表立ってイスラエルを攻撃することはなく、ましてや本土を標的にすることはなかった。それに代わる対抗手段は「外交カード」として使っていると考えられる核物質ウランの濃縮だった。
それが今回、在外の公館が被害を受け、さらに革命防衛隊の幹部が殺害されたことで態度を変えた。そして、歴史上初となるイスラエルへの直接攻撃に踏み切ったのだった。
日本の外務省は4月14日に「事態の緊迫化」を理由として危険情報を更新し、イラン国内のほとんど全域を対象に4段階で上から2番目となる「レベル3」の「渡航中止勧告」に引き上げた。在イランの日本大使館は在留邦人に向けて「注意喚起」を相次いで発している。
イランには大使館や商社の勤務者ら440人の日本人が暮らしている(2023年10月現在、外務省)。イラン国内が緊迫の度を高めるなか、イランからの退避を急ぐ日本人が相次ぎ、私が在任中に知り合った人たちからも連絡が入った。日本やアラブ首長国連邦などに逃げたほか、テヘランの国際空港が一時的に閉鎖され、退避できなかったと聞いた。