昨年10月7日以来、イスラエルと戦闘中のイスラム組織ハマスをはじめ、レバノン南部を拠点にするシーア派組織ヒズボラはイスラエルとの交戦を繰り返してきた。これらの勢力がイランによる報復の際に手先として動くのかどうか注目されたのだ。
しかし、結果はやや意外なもので、実際にはイラン自らが攻撃をした。イランにはイスラエルとの間で漂う緊迫が予期せぬ形で高まることを防ぐ思惑があったのだろう。
または、戦争に至るかもしれない重大な局面では「親イラン勢力」を頼れないのではないかと考えられる。イランの狙いが各勢力に対して正確に伝わらない恐れがあるからだ。
日本で「抵抗の枢軸」として各勢力について報道される時、イランが主体となって構成する「ネットワーク」だという表現を見かけることがある。米国側やイスラエル側は「抵抗の枢軸」を安全保障上の「脅威」だと訴える。
一方で、イランは各勢力に対する明らかな指揮系統を持っているのではなく、緩く繫がっていることが実情に近いのだろう。中東地域におけるイランの影響力や脅威が実態以上に強調されていないかどうか注意が必要だ。
もう一つの点で関心を引かれたのは、イランとイスラエルが互いの本土を直接攻撃し合ったことである。これまでイランとイスラエルの間で起きていた「影の戦争」が「表の戦争」になったという解説が日本でも出ている。
私はテヘランで特派員として過ごすなか、「影の戦争」についても取材していた。赴任からちょうど1カ月後の2020年11月、イランの核開発を長年にわたって主導してきた科学者モフセン・ファフリザデがテヘラン郊外で銃殺された、と報じられた。
国際原子力機関(IAEA)が作成した2015年12月の報告書によると、ファフリザデは核兵器の開発計画に関わり、起爆装置の研究チームを率いていた時期があったとされる。また、2018年4月にはイスラエルの首相ベンヤミン・ネタニヤフが、イランによる核兵器の開発計画をファフリザデが主導していると主張。ファフリザデの顔写真を示して「彼の名前を忘れるな」と述べていたのだ。