食費を確保するため、外食や家族旅行といった楽しみを我慢し、子ども服の買い替えを控えているという。生活の楽しみを奪われ、子どもの未来も安心できない様子だった。
欠品だらけの医薬品
我慢や節約で済まない状況があると思い知らされたのは、私の家族が病気になった時である。新型コロナウイルスの流行がやや落ち着いた2022年3月27日、私は妻と7歳になる長女、1歳7カ月を過ぎた長男をテヘランに呼び寄せた。
ところが、長男は地元の保育園へ通園をはじめてから3日目の夜に発熱し、39.5度まで上がった。翌日以降、長男は空腹を訴えている割におかゆやスープを作ってもほとんど口にせず、下痢もするようになった。私と妻の心配は限界を超えた。発熱から4日目の朝、総合病院のデイ・ホスピタルに連れて行った。薄暗い廊下の壁に沿って置かれた長いすでは、高齢者のほか、保護者に抱かれた赤ちゃんがずらりと待っている。
ようやく案内された診療室で問診を受けるも、英語でうまくやり取りできず、長男の様子は医師に正しく伝わらなかった。触診では、ベッドに横にさせた長男の腹部を数秒なでた程度だった。医師は「一般的な風邪ですね」と診断し、計3種類の解熱剤と整腸剤を処方すると説明した。机の上にあったメモ用紙を手に取り、ボールペンで薬の種類を書いてスタンプを押す。「こんな簡単なメモが処方箋か」とげんなりしつつ、その紙切れを院内の薬局に出した。
落ち込んでいた気分は絶望感に変わる。シロップの整腸剤は在庫がなかったのだ。病院の外に出て別の薬局を探す。目に付いた店舗に入ってみるが、どこも在庫を置いていない。ようやく4軒目で処方薬を見つけられた。
後日、改めて薬局を取材で訪れると、販売員のカーベ・エスラムドスト(27)が言った。
「薬不足は常態化し、在庫が切れてもすぐに補充できません。やはり制裁の影響が大きいです」