そうした話を聞いていた学生はしかし発表でこう喝破した。
「見逃し配信で一週間で地上波に返そうという戦略は、読売新聞の新聞に返すためのデジタル『新聞withデジタル』と同じ戦略。しかし、私たちは行き詰まると思う。地上波のためのTVerではなく、ネットでのプラットフォーマーを目指すべき」
2020年には実際にネットに地上波を同時に流す「ネット同時配信」が放送法の改正でまずNHKで始まり(NHKプラス)、それを追いかけるようにして、民放も日本テレビを筆頭にしてネット同時配信をTVer上で始めだす。
全14回の講義の一回分は、コンテンツをつくっている側がプラットフォームを作ろうとした試みを紹介する回「あらたにす、radiko、TVer」の回としていたが、この回にゲストとしてTVerの役員が登壇するようになったのは、2020年からだ。
2年前、同時配信に慎重だったその役員は、2020年、同時配信を積極的にやっていく、と話し、時代が大きく動きつつあることを感じた。
2022年には、教室にいくと、学生が『silent』というドラマのことで盛り上がっていた。最初の3回分がアーカイブされ常時TVerで見ることができるようになっていたこのドラマは、地上波とほぼ同数がTVerで見ることになった節目のドラマ(7300万回超再生)だった。学生はドラマを地上波ではもう見ておらず、TVerで見ていたのだ。
民放五系列のネット同時配信もこの年の4月11日に始まっている。
NHKアーカイブ事業の公共性と将来性
学生の発表の中には、今後のビジネスのヒントになるようなこともある。
たとえば2020年には「2050年の映画界 シネコン・ミニシアターとサブスクの存在」(佐藤太治、佐瀬結紀)という発表があった。
当時はコロナ禍のさなかであったため、直感的にはネットフリックスなどのサブスクがシネコンにやがてとってかわるだろうという予測があった。