上智大学「2050年のメディア」6期生とともに講義の打ち上げ。左から松本花音、平井沙織、私、吉田陸人、木下晴。
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 上智大学新聞学科で2018年9月から開講していた「2050年のメディア」の講義が今年の1月で終わった。

 主観的な時間の6年はあっという間だったが、6年という月日は、激動するメディア情勢にとっては、驚くほどの変化があった。

 鮮明に覚えているのは、2018年に電通が出している『日本の広告費』から媒体別の広告費の推移のグラフを見せながら、「このあとグラフはどうなると思う?」と学生たちに予測させたこと。

 テレビの広告費は横ばいとはいえ、まだインターネットより4384億円多かった。

 全14回の講義では、紙からネットへ人々の生活の場がかわっていくことで、新聞業界が苦境におちいっていく様を学んでいたから、テレビも同じになるだろう、と頭ではわかっていた。しかし、テレビがネットに負けることをなかなか実感として私も学生もわからなかった。

 それが翌年には1534億円の差まで詰められ、2020年には逆転される。

 2024年の最新の数字でインターネットの広告費は、3兆3330億円で2018年当時の倍以上になり、テレビは約1兆6000億円の差をつけられてしまった。

地上波に戻すためのTVerは変わった

 講義は、最終回に班にわかれた学生たちの発表がある。「2050年のメディア」というおおまかな設定のなかで、テーマは学生たちが自由に選ぶ。この回だけは外部へのオープンの回になり、もっとも優れている発表に「下山進賞」をあげるという趣向にした。

 最初の年に、この賞を受賞したのは、まだ始まったばかりのTVerの役員の一人に取材をし、当時のTVerの本質をついた発表(長谷川美波、河本昇吾)だった。

 当時、TVerは見逃し配信として一週間、ドラマなりをそこで見ることができるという立て付けのものだった。これによって地上波に客を戻そうという設計だったのだ。

 地上波の同時配信は議論にあがっていたが、とてもではないが無理ということをその役員は学生に話をしていた。TVerはキー局と電通・博報堂などの広告代理店が出資してできた会社が運営しており、キー局はローカル局という悩ましい問題を抱えていたからだ。ネットでキー局の番組が自由に見ることができるようになってしまっては、自社制作率が平均9パーセントしかないローカル局の存亡にかかわる、ということだった。

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