4月12日に水原一平容疑者が出廷した際に描かれた法廷画。目撃した記者によると、ノーネクタイのスーツ姿で、ズボンがずり落ちそうだったという。現地で取材するベテランの法廷記者は「それは、彼がベルトをしていなかったからだよ。靴ひもやベルトなど、自殺につながる可能性があるものは、当局に身を引き渡した段階で全て取り上げられる。それが決まりだから。だから、ネクタイもなしだった」と話す(AP/アフロ)

胴元ボウヤーの人たらしぶり

 違法賭博の胴元を務めた容疑で捜査されているマシュー・ボウヤー氏は、水原氏とテキストメッセージを交わす中で「あめ」を上手に与えながら、水原氏を賭博の深みにはめていく。

「あと20万ドルだけバンプしてくれない? ママに誓ってこれが最後だから。必ず払うから」と信用賭けの上限を上げてくれるように懇願する水原氏。ボウヤー氏は「ノープロブレム。都合つけといたよ。メリークリスマス」と返信した。

 バンプとは、違法賭博のスラングで、胴元に対して信用枠による借金の額を上げてもらうことだ。

 さらにその6カ月後に「今度が本当に本当に本当に最後だから、バンプしてくれる?」という要求を水原氏が出すと「都合つけたよ」と即対応した。さらに「自分も同じ問題を抱えてるからな」と書き、涙を流しながら半笑いしている絵文字を付け加えた。“同じ問題”とは、ボウヤー氏自身が違法賭博にはまって破産申請した過去を指すのだろう。

 賭博から抜け出せない気持ちはわかるよ、自分も同じ穴のむじなだから――というメッセージを送って親近感を持たせ、自分が提供する賭博で借金まみれになる客をなぐさめつつ、その懐に入り込む胴元。

 さらに「イッピー、正直に言うけど、毎週月曜に50万ドルずつ必ず返済してくれたら、いくらでも望むだけ都合つけるよ。君が約束を守る人間だってわかってるからね」と伝えている。50万ドルといえば日本円で約7600万円だ。

 日ごろ、大谷選手の通訳兼アシスタントとして、大スター選手の要求を満たすことが仕事の水原氏にとって、自分の要求を即座にのんでくれ、ニーズを満たそうとしてくれる人間の存在は新鮮だったはずだ。

 ボウヤー氏は後に水原氏に対して脅しのテクニックも絶妙に使っているが、何よりもまず「あめ」を与えて客の心をつかんだ。訴状には、ボウヤー氏の客は600人以上だと自ら語ったと記されている。それだけ多数の客をつかんでいたボウヤー氏だが、中でも水原氏は特別扱いされていたかのように見える。

「実は君の損失の半分を、私のポケットマネーからすでに私のパートナーには返済しておいたんだ」。自分が身銭を切っていると恩を着せ、さらに自分以外に別のパートナーの存在があること、このパートナーが力を持っていて、彼を怒らせたくないのだ、というパワーバランスを水原氏に伝えている。このパートナーが実在の人物なのかどうかは訴状には書かれていない。

「すっからかんに負けたよ・・・最後にもう一度バンプしてくれる?」というテキストを水原氏が送る度に「OK np. Done」(「わかった。ノープロブレム。都合付けといたよ」)と簡潔に答え、うるさく詮索しない。ギャンブル依存の心情を知り尽くしたボウヤー氏は「あめ」をコンスタントに与えることで、水原氏にとってなくてはならない存在になっていったことが読み取れる。

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訴状を書いた捜査官のプロフィルは?