桜の季節の京都ウン十年前のトレビの泉?(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 大阪で堀井美香さんとトークショーを行う前日、ひとりで京都を訪れました。ちょうど桜の季節ですし、あてもなくふらりと散歩しようと思ったのです。

 京都駅につくと、新幹線の大幅な遅延でもあったのかと思うほどの人、人、人。欧米やアジアからの観光客でした。ここ数年、京都には何度か訪れたけれど、ここまでの人出に出くわしたのは初めて。コロナ禍の影響がなくなり、ようやく戻ってきたのでしょう。

 タクシー乗り場には100メートルほどの列ができていました。と、いうことは。観光名所はどこも大賑わいなはず。

 夜。遅めの夕飯のために街へ出てみると、9時を優に過ぎているのに、八坂神社のあたりは海外からの観光客でごった返していました。

 この様子には既視感があります。これはウン十年前に訪れた、ローマのトレビの泉。どこもかしこも海外からの観光客で、お土産屋さんの店員以外、イタリア人が見当たらなかったのを覚えています。東京にも外国人観光客がおりますが、浅草寺などの有名観光地に足を運ぶことがないため、これほどのインパクトは感じたことがありません。

 賑わいを横目に、明日は早起きをしようと決意しました。ゆっくり桜を見たいなら、それしか手がないでしょう。

イラスト:サヲリブラウン

 翌朝、私は6時にホテルを出て神社へと向かいました。さすがにその時間なら、誰もいないと踏んだのです。

 しかし! そこには同じことを考えるご同輩がいました。昨日は「私以外、ひとりもいないのでは?」と疑いたくなるほど目にすることがなかった日本人観光客たち。しかも、20代とおぼしき若い子ばかり。若者たちは静かに桜を愛で、お参りをして、ニコニコと去っていきました。なんてスマートなんでしょう。

 散歩のついでに朝7時から開いている可愛らしい中華粥のお店へ行くと、そこにも大学生くらいの男性が二人。これだけで「最近の若者は早起き」とするのは乱暴ですが、旅を楽しむ工夫に余念がないと感心しました。

 加えて、「男子二人で朝から中華粥の店に並ぶ」が自然にできるのにも感激しました。「そんなの、女みてえ」と小馬鹿にするような価値観に汚染されていないのだとしたら、それは素晴らしいこと。

 大勢の外国人観光客に圧倒されながらも、新しい日本の若者の姿に感銘を受ける旅でした。

AERA 2024年4月22日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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