この「ラジオへのメッセージ」は、実に9年ぶりの公に向けた明菜さんの肉声となり、これで「手紙→写真→歌唱音源→肉声メッセージ」までが揃う格好となりました。ならば「次こそはテレビ?」と誰もが思うところ。しかし、次に明菜さんが選んだのは「スタジオで歌唱しているモノクロ映像」でした。こちらは公式YouTubeチャンネルで昨年のクリスマスイブに公開されました。ヘッドフォンを装着し、レコーディングマイクに向かい、若干緊張気味に声を震わせながら「北ウイング」を歌う明菜さん。実に9年ぶりの「動く明菜」は、公開から3カ月が過ぎた現在までに、530万回再生を記録しています。
この明菜さんに対する世間の熱量は、数多のNO.1ヒットを放っていた80年代当時のそれを上回るぐらいの勢いがあるようにも感じます。
「待つ」という行為や必要性が、日常の暮らしにおいてどんどん少なくなっていく現代、人は「欲しいもの」を手に入れるためには待つことを厭わない。無駄に待たなければならない物事が淘汰された結果、「本当に待ちたいもの」にフォーカスできる時代になったということでしょう。そのひとつが「中森明菜」なのかもしれません。
現代社会の「待つ心理」と、明菜さんの「復帰プロジェクト」は、実に上手くリンクしています。「手紙→写真→歌唱音源→肉声メッセージ→モノクロ映像」まで来ました。そして、先週3カ月以上ぶりに公開された最新歌唱動画は、ついに「カラー映像」。
今の明菜が、グレーのニットを着て、紅いリップを引き、ブラウンとグレーのアイシャドーを纏い、グレーベージュのネイルを施している……。「色彩」のありがたみをこんなにも実感したのは、何年ぶりでしょうか。昭和中期の日本人がカラーテレビに歓喜した時の気持ちを、この歳になってようやく分かち合えた気分です。