エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復してきた小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 2531年に、日本人は全員佐藤さんになる……東北大学高齢経済社会研究センターの吉田浩教授がそんなシミュレーション結果を発表しました。夫婦が同じ姓にしなくてはならないのは、世界で日本だけ。このままだと、佐藤さんしかいなくなってしまうというのですね。

 選択的夫婦別姓制度の導入はなかなか実現しません。夫婦の名字が違うと伝統的家族が壊れると主張する政治家もいます。選択的夫婦別姓制度は読んで字の如く、選択の幅を広げるもの。夫婦で同じ姓にしたい人も、別々の姓でいたい人もどちらもありというものです。現在同じ姓で仲良くやっている家族に影響はありません。私の友人知人には、夫婦で同じ姓にしたくないが故に事実婚を選んでいる人たちがいますが、当然ながら、彼ら彼女らが別姓のまま夫婦として家族を作っていることが、夫婦同姓を選んだ私の家族関係になんら悪影響を及ぼしてはいません。

夫婦で同じ姓にしたい人も、現在の姓でいたい人もどちらもありでいい(写真:gettyimages)

 結婚に際して慣れ親しんだ姓を配偶者の姓に変えるのはほとんどの場合は女性です。公的書類に記載された戸籍上の姓と仕事で使っている姓が異なることによって身分を証明する際に混乱が生じるなど、不便だらけ。私も講演会などで主催者が手配してくれる飛行機のチケットの登録名は「小島」ですが、マイレージ登録は戸籍上の名字。いちいちカウンターで手入力してもらわねばなりません。やがて全ての人が佐藤になった時には、そんな煩わしさもなくなるのでしょうけれど。

 私自身は結婚の際に夫の姓にすることに抵抗はなく、小島ではない名字を名乗るのは新鮮でした。今も二つ名乗り分けるのを気に入っています。でも改姓したくないという友人たちが、それ故に私が難なく選べた婚姻という選択肢を与えられていないことは実に理不尽です。選択的夫婦別姓制度の早期実現を。

AERA 2024年4月15日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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