「目標は『自己満足』です」
世界選手権連覇を果たし、昨季を終えた宇野昌磨。今季の本格的な開幕を前にした昨年10月8日、GPシリーズ2023記者会見に臨んだ宇野は、「自己満足」と書いたフリップを手にそう宣言した。
「まずこの2年間、本当に自分が思っていた以上の結果を出すことができました。ただ結果には満足していますけれども、どうしても自分の演技に関しては、なかなか満足できるものというか、もう一度観たいと思えるような演技をしてこられていないというのが、僕の感想です。その理由としては、やはりジャンプが中心のプログラムになってしまっている」
「正直、ジャンプを頑張ることが競技の順位・点数を求めるにあたって一番必要なことだと思っているので、この2年間ジャンプを頑張りましたが、書いてある通りに、ここからは自己満足のために自分の表現力というものを頑張っていきたいなと思っています」
今季はショート・フリーともに、宇野の意を振付師が汲んだような芸術性の高いプログラムになっていた。宇野のコーチでもあるステファン・ランビエール氏が振り付けたショート『Everything Everywhere All at Once』には、幻想的な雰囲気が漂う。また、一昨季からともに傑作を創り上げてきた宮本賢二氏に振付を依頼したフリー『Timelapse/Spiegel im Spiegel』では、宇野のスケート人生を表現。どちらも静かな曲調を重厚なスケーティングで表現し、深い味わいを醸し出すプログラムだ。
主役・ルフィを演じた『ワンピース・オン・アイス』に9月まで全力投球した宇野のシーズンは、昨年11月のGPシリーズ中国杯から始まった。異例の遅さとなった初戦で、宇野は見事なショートを披露し首位発進。しかし、ジャンプの種類と本数が増えるフリーではミスが出て、総合2位となった。
ジャンプがすべて決まれば、元より優れた表現力に磨きをかける宇野の強さが発揮される。しかしジャンプのミスが出ると、プログラムの流れが途切れてしまう。宇野は今季4回転サルコウを封印したが、それでもフリーには3種類4本の4回転を組み込んでいる。ジャンプの成功が勝負に直結する競技会で、どこまで表現に重きをおくのか。彼の立場でなければできない挑戦をしたのが、宇野の今季だったともいえる。