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《Between Breads and Noodles》(2014)(写真:金仁淑提供)
出会いのための道具
一枚のポートレートでどれだけのことが語れるか。そう考えると写真という表現が、鑑賞者が「読もう」とする思いにいかに委ねられているか想像できる。
〈近年は、動画のクオリティーが著しく向上し、動画、静止画が両方撮れる。どちらが作品かという議論も出てきそうだが、金さんの今回の作品は、新しい表現方法として限りない可能性があるように思う〉(今森光彦氏・選評から抜粋)
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金さんの根幹には「多様であることは普遍的である」との考えがある。作品を通じて、社会に依然として存在する「壁」を浮かびあがらせる。民族、国籍、職業、ジェンダー、年齢……。そんな枠組みから人は人を把握しようとするが、意識して「個」を見つめないと見過ごしてしまうことがある。
〈風刺のような政治的なメッセージや区別することで生まれてくる分離も見受けられず、そういったところから遠く離れた場所から俯瞰(ふかん)したような、全てを見守る大きく温かな視線を感じる〉(澤田知子氏・選評から抜粋)
「私は出会いのための道具としてカメラを使っています。作品に出ている人が、1人でも違う人だったら異なる作品になると思っているんです」
そのしなやかでたくましい眼差(まなざ)しは、すべて「個」であるはずの、人間そのものの姿を示し続ける。(写真編集者・池谷修一)
※AERA 2024年4月8日号
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