AERA 2024年4月1日号より

 その点について、小児科医の今西洋介さんは現場からの視点として「医師の主観だけで判断するのは、逆に医療側の負担になる」と指摘する。

「『なぜ入院させないのか』など、親御さんと押し問答になるケースも出てくる。そうなると医療不信にもつながりかねない。避けるためには、個々の医師や各医療機関の判断ではなく、全国的な統一基準を作ることが必要になるかもしれません」

 今西さん自身は松阪市の方針、そして将来の救急車有料化についても、「現場としてはありがたい」と肯定的にとらえている。

「救急車を無料のタクシー代わりに考えていて『帰りも自宅まで送って』と言う方もいらっしゃる現状ですので。有料化の導入は必要かなと思います」

「ためらい」増える懸念

 一方で、有料化によって、「親のためらい」が増える懸念はあると、今西さんも言う。

「親御さんは遠慮しがちですが、医者からすると救急車を呼んでほしいケースはとても多いんです。子どもは状態が悪くなるとき『静かに悪くなる』。たとえば熱性痙(けいれん)攣で、痙攣が治まっているように見えても続いていたり。小児の場合は発熱のみの症状などは別として、自分で判断がつかないならためらわず救急車を呼んでくださいと、日頃から親御さんには話しています」

 その前提で、救急車「有料化」の報道を機に考えてほしいこともあると、今西さんは話す。

「日本は米国などに比べて“ホームケア”、つまり家庭でできる予防や対策についての啓発が遅れています。お子さんに熱が出たとき、救急車を呼ぶ前にできることはないのかなど“まず家庭でできること”を学び直してみる。ふだんから『#8000』など受診前電話相談の知識を持ち、『どんな状況なら救急車を呼ぶべきか』を相談できるかかりつけ医なども日頃から作っておく。そんなことを意識してもらえるといいかなと思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年4月1日号より抜粋

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