都内で会見する羽生善治日本将棋連盟会長(つのだよしお/アフロ)

「画期的なひらめきや判断」を生む直観力は、年齢を重ねてこそ磨かれる側面がある。将棋の第一線で長年活躍を続ける羽生善治九段(53)が、その象徴的な例だろう。千葉大学脳神経外科学元教授の岩立康男氏は、著書『直観脳 脳科学がつきとめた「ひらめき」「判断力」の強化法』(朝日新書)のなかで、加齢という制約の中でも、直観力の向上は可能だと明言している。「直観力に年齢制限はない」といえる根拠とは?『直観脳』から一部を抜粋して解説する。

【写真】7冠を達成した時の羽生七冠はこちら

* * *

直観に年齢の壁はない

 意味記憶の蓄積が、優れた直観力の発揮に欠かせないということは、すなわち全ての人にとって、直観力は「今」が最も冴えわたっているのだと言える。人生の経験知は「今」こそ人生で最大に達しているはずだからだ。歳を重ねながら、仕事も趣味も真剣に取り組むことによって、その人の「良い経験」として蓄積している。

 しかし、現実はそう単純ではなく、脳の加齢によって変化が起きてくることは否めない。脳は生きていて、新たな経験知を記憶として残すと同時に、加齢による脳細胞の死と脱落・減少によって意味記憶のネットワークも少しずつ失われていくからだ。

  残念だが、こればかりはゼロにはできない。進化した脳は、全身の20%にあたる大量のエネルギーを消費する「最も贅沢な臓器」であり、その代謝負荷と酸素消費による活性酸素の影響によって「最も維持の難しい臓器」であるからだ。 

著者プロフィールを見る
岩立康男

岩立康男

岩立康男(いわだて・やすお) 1957年東京都生まれ。千葉大学脳神経外科学元教授、現在は東千葉メディカルセンター・センター長。千葉大学医学部卒業後、脳神経外科の臨床と研究を行う。脳腫瘍の治療法や脳細胞ネットワークなどに関する論文多数。2017年には、脳腫瘍細胞の治療抵抗性獲得に関する論文で米国脳神経外科学会の腫瘍部門年間最高賞を受賞。主な著書に『忘れる脳力』(朝日新書)がある。

岩立康男の記事一覧はこちら
次のページ
直感は年齢に制限されない