俳優でミュージシャンで文筆家。著者の星野は、多才な男だ。しかもいま流行りの塩顔イケメン男子ときている(塩顔=あっさりとした顔立ちのことです)。が、全てに恵まれていると思いきや、元・引きこもり少年の鬱屈した感情がチラと見えたり、シモネタで笑わせるユーモアの人だったりもするので、一筋縄ではいかない。星野には「彼のことをもっと知りたい」と思わせる不思議な引力がある。わたしの周りの星野ファンが彼の見た目だけでなく「頭の中」に惚れるのも納得だ。
本書はそんな星野の「思考の軌跡」だと言えるだろう。読者は深い森のような彼の「頭の中」を彷徨うことになる。収録されているのは、映画評、自身の楽曲解説に歌詞分析、コラムに小説、俳優として関わった作品の紹介。さらに、園子温とハマ・オカモト(OKAMOTO,S)のインタビュー「星野源ってどんな人?」や、ピース・又吉直樹との対談も入っている。サービス精神旺盛というか、サービス過多というか、とにかく読者を楽しませようと工夫しまくりだ。
又吉との対談で、肩書に対する違和感を語っていたのが印象的だった。「何の仕事がメインとか肩書きとか、関係なくやりたいですよね。最近、音楽家はそれ一本でいかないとダメとか、芸人さんもそういうところあるかもしれないですけど、何か専門を絞らないといけない時代になっていて」。マルチに活躍する星野と、『火花』の芥川賞受賞で今まさにマルチ化している又吉という、ふたりのクリエイターが抱えるモヤモヤが伝わってくる。ひとつの道を極めることばかり美談になる世の中で、「あれもこれも」を求める異端児の貪欲さが眩しい。しかも「働く男」であることを肯定しつつ「働きたくない」自分を許容するような、矛盾する「あれもこれも」さえ欲しがるほど貪欲。読み進めるうち、こちらまで貪欲をたしなみたくなってくる。もし本書に副題をつけるなら「貪欲入門」で決まりだろう。
※週刊朝日 2015年10月23日号