「NEW COAST」(1992年、江戸川区・葛西臨海公園)から。撮影:大西みつぐ

トレンディーな不思議な空間

87年からは「周縁の町から」と平行して、変わりゆく東京湾岸の風景を追った作品「NEW COAST」を撮り始めた。

美空ひばりの『川の流れのように』じゃないですけれど、荒川の河口にあたる江戸川区の一番外れに引っ越したのを機に、湾岸エリアを撮るようになった」

時代はバブル景気のまっただ中だった。家のすぐ近くには東京湾に面した葛西臨海公園があり、園内の観覧車や水族館は多くの人でにぎわっていた。さらにその隣に「ロッテワールド」が建設され、一大エンターテインメントの町になる、といううわさで持ち切りだった。

当時、「トレンディー」という言葉が一世を風靡した。大西さんは、「東京湾のウオーターフロントがトレンディーな不思議な空間になっちゃったんです」と、愉快そうに話す。

「江戸川区の浜辺で、男女がワイングラスで『乾杯!』とか、やっているわけです。それまで絶対に目にすることがなかった光景がそこかしこにあった。ディズニーランドができてからそういう波がじわじわと広がってきたんですが、それが加速して、その波に人や風景が飲み込まれていく感じがとても面白かった」

「NEW COAST」(1989年、江戸川区・葛西臨海公園)から。撮影:大西みつぐ

曇天が想像できなかった

期せずして、「河口の町・江東ゼロメートル地帯84」「周縁の町から」「NEW COAST」はバブル前夜からバブル景気崩壊までの時代を写した作品となった。

この3作品に共通するのが「青空」で、曇天の写真はほとんどない。

「この時代の風景って、どんよりした空って、ちょっと想像できなかったんです。しかも、市民のイベントでお父さんたちが何か競争していたりすると、晴れじゃないと成立しない風景に見えた。もちろん、そこに写る人たちは悩みや不満を抱えていたのかもしれませんけれど」

大西さんは今も葛西臨海公園から東京湾を眺めることが多いという。左手の対岸には東京ディズニーランドがよく見える。

大西さんが撮る下町の風景が懐古趣味ではなく、過去と現在、未来が混在しているように見えるのは、下町とは対極にある東京ディズニーランドの存在がずっと気になっているからなのかもしれない。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】大西みつぐ写真展「TOKYO EAST WAVES」
コミュニケーションギャラリーふげん社(東京・目黒) 3月29日~4月25日