
多くの課題を抱える安楽死。日本では十分な議論はまだない。
だが、冒頭のオランダ元首相のファン・アグト夫妻の安楽死のニュースから1カ月後の3月5日、国内のSNSで「死にたい人には死なせてあげた方がいい」「死ぬ権利の保障を」「日本も安楽死を認めた方がいい」といった安楽死を肯定するような書き込みがあふれる出来事があった。
京都地裁で、知人の元医師・山本直樹被告(46)=自身の父を殺害したとして殺人事件に問われ、二審が懲役13年とした一審・京都地裁判決を支持。無罪を主張した山本被告側の控訴を棄却=の父(当時77)を殺害し、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)から依頼を受けて殺害したとして、殺人や嘱託殺人などの罪に問われた医師、大久保愉一被告(45)の裁判員裁判の判決があったのだ。
逮捕当初から女性の殺害を認めてはいたものの「女性の願いを叶えるためだった」と主張していた大久保被告。女性が生前SNS上で、日本でも安楽死を受けられるようになることを求めていたこともあり、殺害行為に正当性があったのかを、裁判員がどう判断するかが焦点になっていたが、川上宏裁判長は「生命軽視の姿勢は顕著で、強い非難に値する」と述べ、懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡した。
憲法13条は「生存していることが前提」
大久保被告が、女性の主治医ではなかったこと、SNSのやり取りだけで、診察や面会を一度もしていないこと、初対面の日にわずか15分ほどで殺害し、女性から130万円の報酬を受けての行為であることなどから嘱託殺人罪が成立すると結論づけた。
にもかかわらず、盛り上がる「安楽死を認めよ」の声、声、声──。
著述家の児玉さんは、こう強調する。
「大久保被告が医師であることが“目くらまし”になって、京都の事件だけが注目されますが、本質は山本被告の父親殺害事件でしょう。緻密で周到な計画のもとに障害のある人を殺害し、しかも京都の事件が発覚しなかったら完全犯罪で終わった可能性が高い」