早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)の主催で行われた村上春樹さんと川上未映子さんの新作朗読会。特別な一夜の演出を手がけた延江浩がレポートする。AERA 2024年3月18日号より。
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2024年3月1日午後6時半、早稲田大学大隈講堂の客電が落ち、朗読会が開演した。聴衆は無料招待の学生250人を含む1100人。
「こんばんは。村上春樹です」
「こんばんは。川上未映子です」
舞台の上でスポットライトを浴びた二人の声がオーディエンスの耳に吸い込まれていく。
「村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」は早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)の主催。国際文学館で定期的に行われている「Authors Alive!~作家に会おう」のスペシャルバージョンとして開かれた。
事前に聴衆に伝えられていたこと。それは村上春樹さん、川上未映子さんがこの日のために特別に新作を書き下ろし、披露するというものだった。
「出来立ての、誰一人として読んでいない短編です」と川上さんがマイクに向かうと、「ほんの10日前に出来上がりました」と春樹さんが微笑んだ。
そんな挨拶に続いて、川上さんがまず自作の「青かける青」を読んだ。『春のこわいもの』に所収の掌編は、コロナ禍によるパンデミックで誰もが経験した孤独感に触れている。川上さんは自らの原稿から目を離して宙を見つめ、切実に何かを訴えるような仕草で朗読を終えた。
春のみみずく朗読会開催に至るまで、「音楽があった方がいいね」「俳優の(小澤)征悦君の朗読も」など村上さんからもアイディアをもらった。
演出に当たっては村上さんがDJを務める村上RADIOのように自宅のリビングでくつろぐ空気を望んでいると考え、詩の聖地ニューヨーク、Bowery(バワリー)で見たポエトリー・リーディングやマンハッタンのアクターズ・スタジオの公開レッスンをイメージし、形式ばらず、気さくで自由なニューヨークスタイルの舞台を提案した。