左から小澤征悦さん、川上未映子さん、村治佳織さん、村上春樹さん(写真:早稲田大学国際文学館提供)

小澤征悦さんも朗読

 朗読用スツールの後ろにソファを2脚置き(村上さんが実際に使っていたもの)、本棚には村上さんや川上さんの何冊かの著作を並べ、DJブースも誂えて開場時に村上さんが愛聴するレコードをかけるなどしてトラディショナルな大隈講堂にトライベッカ倉庫街の趣を加え、リラックスした雰囲気で聴衆を迎えるアートワークを目指した。

「青かける青」を読んだ川上さんに続いて村治佳織さんがギターを弾いた。彼女が選んだのはビートルズ。「大隈講堂の舞台に似合うと思って」と「イエスタディ」と「ミッシェル」を独奏した。次にジーンズに黒いライダース・ジャケットに身を包んだ小澤征悦さんが登場、川上さんの『ヘヴン』の一節を朗読。悲しみを乗り越えた恋人たちが見つけた居場所(=ヘヴン)を描いた絵画のストーリーを、美術館の回廊を巡るように歩きながら読み、村治さんは「亜麻色の髪の乙女」「展覧会の絵」からそれぞれひとフレーズ、ラストで映画「ディア・ハンター」のテーマ「カヴァティーナ」をつま弾いた。

 小澤さんは原稿を閉じ、「いやいや、僕の後ろに原作者の川上さんがいると緊張しますね」と振り向くと、ソファに座って聴いていた川上さんが「がんばったね」とでも言うようににこにこと手を振った。

 そして村上春樹作品。小澤さんは自分が一番好きだという『風の歌を聴け』を読んだ。

45年前の情景浮かんだ

 1970年の夏、海辺の街に帰省した大学生の「僕」が友達の「鼠」と「ジェイズ・バー」でビールを飲む。バーの洗面所で倒れていた女の子を介抱し、親しくなる。ものうげな、ほろ苦いひと夏のストーリー。

 小澤さんの朗読に、聴衆は誰もが自分なりの過ぎ去りし青春の面影を探しているようにみえた。以前読んだはずの物語が朗読によってまた違った新鮮さを感じているみたいに。

 スツールに腰かけ、ゆったり『風の歌を聴け』を読む小澤さんの声が村治さんのギターと相まって会場に伸びていく。そして観客はその声に自分それぞれの風景を浮かべている。

「『風の歌を聴け』は僕のデビュー作でした。45年前です。僕自身、この作品を書いた時の情景が浮かびました。今日はね、新作を読むのだけど、デビュー作と新作、なんだか奇遇です」と小澤さんに村上さんが声をかけた。

「でも、残念ながらこの小説のことはあんまり覚えていないんだよなぁ。そんなこと書いたかなって。新しい作品を書く時は同じようなことを書かないように気を付けないと」と頭を掻いた。川上さんは「それは大変。みんなでチェックしないとですね」と笑いを誘った。

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